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#日記

街かどの亡霊

街かどの亡霊

車を走らせていて見慣れた町並みを通り抜けながら、かつてあの角を曲がったところのアパートによく知った人が住んでいたことを思い出す。

その人は4階建ての建物の3階に住んでいて、何かにつけよく呼びつけられていた私はエレベーターのないそのアパートのコンクリート階段を踏みしめるように昇って訪ねたものだった。

不要品が溜まってしまって処分したいが車がないから手伝ってほしいとか、もう着なくなった洋服や靴がた

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母国語のエイリアン

母国語のエイリアン

話しているのは同じ日本語なのに言葉の通じない相手が増えた。
これはたぶん、私が時代の流れに置いて行かれてるってことなのかもしれない。

あなたの尋ねていることの意味がわからない。
あなたの答えは私の問いに対する回答にはなっていない。
それはつまりどういう意味ですか?
そう感じてしまって、もう人と話すのが億劫になってきた。

みんなあんな風でどうして会話が成立しているのか不思議でしょうがない。
省略

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母さんのベッドメイク

母さんのベッドメイク

「電話くれ」
父からシンプルなメッセージが届いていた。

仕事を終えてそのメッセージに気づいた私が電話を入れると、父はオロオロした声で
「お母さんのあれ、なんだ、ベッド手伝ってくれ」
と言う。

「ベッド?ベッドがどうかしたの?」
「あれさ、ほら、ああ、ベッドメイキング」
天気がいいし、マットレスの天日干しでもしたんだろうか。とりあえず徒歩数分のところにある両親の家へ向かう。

母のベッドはリース

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