見出し画像

先生さん、さようなら

先生さん、という呼称は私が40年来敬愛する内田百間の作中で風船画伯(こと谷中安規)が百間先生を指す感動詞のようなものです。
もちろん本エントリ件名は、訃報が届いた作家、樋口有介代表作のひとつ
『刑事さん、さようなら』(2011年2月中央公論新社)へのオマージュ。

ウィキペディアには

1988年 - 『ぼくと、ぼくらの夏』で第6回サントリーミステリー大賞読者賞受賞。
1990年 - 『風少女』で第103回直木三十五賞候補。
1991年 - 『彼女はたぶん魔法を使う』で第12回吉川英治文学新人賞候補。
1992年 - 『夏の口紅』で第13回吉川英治文学新人賞候補。
2007年 - 『ピース』で第60回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)候補。
2012年 - 『刑事さん、さようなら』で第65回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)候補。
2013年 - 『猿の悲しみ』で第66回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)候補。

って年譜が記されているので、遠目には順風満帆な作家人生だったように見えるかもしれませんが、待てちゃんと見ろ1992年から2007年までの歳月を。この15年間もだいたい年1.5冊のペースで新著を刊行しているのですが、まあ-ことばを選ばずにいえば-芽が出ない時期で。

それが一変するのは2006年7月の『彼女はたぶん魔法を使う』の創元推理文庫入りでした。
そこを境に、ようやく作家は、作品にふさわしい質量の読者を獲得できたのだ。と私は思うのです。
自信満々なのは私自身がこのタイミング以降の熱烈な愛読者で、似たようなひとの多さを知ってるから。具体的に誰かを思い浮かべているというよりは、書店の店頭に定期的に並ぶシリーズを見てりゃ「好評なんだな」って分かるし、文庫版あとがきの作者の調子とかもね、ウキウキしてたしね。

換言すれば、自分より古くからの愛読者がいることもまたよく知っているので大きな顔はいたしません、ぜひ諸先輩各位には存分に思い出を語っていただきたく。というお断り(または言い訳)を内に秘めつつ、追悼ツイートをまとめておきました。

本当は文庫版解説者リストでも作ろうかと思ったのですが、ここまで喪失感にさいなまれながら書いて、想像以上に自分がショックを受けていることに気付く。
自分より長い/深い愛読者の諸先輩各位に、分かります。って言いたかった、という心の初動記録を残すだけで、今日は勘弁してください。

名作『枯葉色グッドバイ』エンディングで、主人公(元刑事のホームレス)が沖縄に旅立ったときから、この日の心づもりはしていたじゃないですか。
ときどきの風のたよりが、その後の新作という形で我々のもとに届く日が永遠に続くはずもない、そう思ってはいたものの、なんとなく凝視せずに生きてきた。
だったらこれからもそんな感じで「あれ? そういえば最近新刊出ないな。先生さん、サボってんな」と思っていればいいんじゃないか。今はまだ、そんな気分です。

※画像は「直木賞のすべて」の子サイト「文学賞の世界」から


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?