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変形性膝関節症の歩行を手術前後で比較してみた

長年変形性膝関節症の痛みに苦しんでいた社員Hさんの、膝関節手術前後の歩行を計測した結果を紹介します。
手術前後で変化があったのか、歩行の様子や関節角度等を比較していきたいと思います。

(文 : KinemaTracer 開発担当者 A)

変形性膝関節症とは

変形性膝関節症は、膝の軟骨がすり減ったりなくなったりして、膝の骨の形が変形して、痛みや炎症を起こす病気です。
Hさんの症状は進行期にあたり、関節軟骨がすり減り軟骨下骨(土台の骨)が直接ぶつかっている状況でした。

変形性膝関節症

変形性膝関節症の手術療法には、大きく「関節鏡視下手術」「高位脛骨骨切り術」「人工関節置換術」の3つの方法があるそうです。
Hさんはこれらのうち「関節鏡視下手術」「高位脛骨骨切り術」の2種類を組み合わせた手術を2019年1月に行いました。

図2

「関節鏡視下手術」は骨棘(こつきょく)というトゲをとって面をスムーズにすることで痛みを抑える手術です。
一方、「高位脛骨骨切り術」は、膝のすぐ下部の脛骨を切って、膝関節内側に掛かる荷重を外側に変えることでアライメントを矯正する(=膝のかみ合わせを自然な角度に整える)ことが目的の手術のようです。
説明を聞くだけでも痛そうです。
一般的には手術の結果として膝の痛みの軽減や、アライメントを矯正によるO脚の改善が期待されます。

計測

今回は、手術前の2018年12月と手術後約1か月後の2019年2月に計測したトレッドミル(=ルームランナー)で歩いた際のデータを紹介します。

計測には、弊社製品の三次元動作解析システムKinemaTracerを用いました。
身体の各関節に合計12個のカラーマーカを貼って、4台のカメラで撮影して三次元化を行います。
各点を結ぶことで、関節を線で結んだ棒人間=スティックピクチャが3次元的に表現できます。

図2

結果(歩容)

まずは、歩行の見た目(歩容)から確認します。
下図は、歩いている中でかかとが地面につくタイミングを背中から見たスティックピクチャです。
手術前にO脚気味だった左足の膝が、手術後に改善されてまっすぐになり本来の理想的な形に改善されていることがスティックピクチャからわかります。

図3

このことは、「リサジュー概観図」でも確認できます。
「リサジュー概観図」は耳慣れない言葉だと思いますが、これは各マーカ(=関節)の軌跡を一歩行ずつ切り出して同じ時間に整えた後、加算平均した図です。
これによって、歩行を一枚の絵としてみることができます。

下の図は手術前後のリサジュー概観図を重ねた図です。
正面の図(後ろから見た図)に注目すると、左膝の軌跡が手術前(図中赤色)より手術後(図中青色)の方が中心に寄っていることがわかります。
先ほどのスティックピクチャの図からは歩行時のある1時点をみて、O脚が改善されていると判断していましたが、こちらのリサジュー概観図からは軌跡(=歩行全体)を通して、O脚が改善していることがわかります。

図4

結果(関節角度など)

次に、各関節角度と歩行の様子の変化も見てみましょう。

一般的に、健常者の歩行では,1歩の間に膝関節を 2回曲げ伸ばししており、これをダブルニーアクションと呼びます。変形性膝関節症の患者は、このダブルニーアクションが減少すると言われています。

図5

手術にてこの部分が改善され、ダブルニーアクションが見られるようになるかと期待したのですが、今回の場合は、手術前の方がダブルニーアクションが明確に出ていました。

図5

また、手術後は膝の痛みが緩和されることから、1歩の間で長く足をついていることができ、歩幅も長くなると思ったのですが、足をついている割合にも変化はなく、歩幅については手術前に比べて手術後の方が短くなってしまっていました。

図6

この時の実験データは手術後まだ1ヵ月程度であったため、トレッドミルの速度をゆっくりでしか設定できませんでした(手術前→4km、手術後→2.3km)。
日常生活はおくれるものの、まだ手術後であったため、関節の曲がり具合や一歩一歩の歩幅の改善には至っていなかったと思われます。

おわりに

手術から日も経ち、Hさんは膝の痛みを気にしなくても良い日常を取り戻しています。
そろそろ上記の内容がどのように改善されているのか、改めて計測するのもいいかもしれませんね。
数値が目に見えていることを次回ご報告できればと思います。

今回計測に使ったシステム

三次元動作解析システムKinemaTracer
https://www.kicnet.co.jp/solutions/biosignal/humans/3d/kinematracer/

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