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古い機材で地球の自転を感じる。

近年、天体観測や星空の撮影をやっている人が増えているような気がします。InstagramやX(旧twitter)などのSNSへアクセスするとごく普通にデジタルカメラで撮影された「天の川」の画像や天体望遠鏡で撮影された系外銀河を目にします。

天体望遠鏡もパソコンやスマートフォンからの操作で天体を自動導入できる製品が多くなり、高いハードルであった「天体導入」が容易になった事も要因だと思います。自動導入で天体を導入し、その天体が地球の自転による日周運動で動いて行くのをそのまま捉えたまま(追尾駆動)天体を見る(または取る)事ができる機材が現在の主流となっています。

昔は…天体望遠鏡の設置をする時にも気を使い(精度よくセッティングする)、天体を導入するにもファインダーで見えない天体を導入するスキルを求められ、天体が導入された後に良く見ようと倍率を上げると日周運動で天体を追尾しながら観望することになります。追尾するための微動は高価だったモータードライブ装置を使うか、手動で微動ハンドルを回して追尾するかの時代もありました。(今でもあります。)

「地球の自転に合わせて手動で微動ハンドルを回して追尾していく」
これらはコントロールするためのボタンの操作ではなく、赤道儀や経緯台の減速装置であるウォームギヤ/ウォームネジを回す作業です。当時の赤道儀の減速比に多かったのは1:144です。この減速ギヤであれば、微動ハンドルの先にあるウォームネジを10分間に約1回転のスピードで回すという速さです。(いや、遅いんですけどね。(笑))
じわりじわりと回していく微動ハンドル。回し過ぎると視野の中の天体が行き過ぎて、元に戻そうと逆回転させると逆方向へ行き過ぎてしまう。減速ギヤの隙間(クリアランス)もあるので、正回転しようとそっと動かしてもすぐには動かずクリアランスが取れてから動き出すので神経を使う操作でもあります。

そんな微動の操作ですが、ひとつの天体を3分くらい微動ハンドルで追尾すれば直ぐに慣れます。他の天体を見ようとすると大きく望遠鏡を動かすことになるので別の操作が加わります。近くの天体であれば良いのですが微動ハンドルだけで望遠鏡の向きを大きく変えようとするのは現実的ではありません。そこで「粗動」という概念が加わるのです。望遠鏡を追尾できるのも、架台に固定されている軸(赤緯軸/赤経軸)と望遠鏡が一体になっている状態を減速装置(ウォームギヤ/ウォームネジ)を介して微動(追尾)できますが、粗動は軸と望遠鏡の固定されている状態を「一旦解いて、フリーで動く状態を作る」と言えば良いでしょうか。「クランプ」と呼ばれる固定ネジを緩めると望遠鏡はフリーで動くようになります。粗動用のクランプは一般的に赤経軸と赤緯軸に2つありますので、赤経クランプと赤緯クランプを緩めて望遠鏡を目的の方向へ大体向けて、それらクランプを締めた後に微動ハンドルで微動(微調整)してファインダーや望遠鏡の視野中心へ導入するような操作となります。視野の中心に目的の天体が導入されていれば、その後は先程の微動ハンドルの操作で追尾していけば良いだけです。

最近の赤道儀架台のほとんどが電動化され、日周運動で動いて行く天体を追尾する事も、モータドライブ装置があるので「天体が動いて行く様を視る」経験が少なくなったように思います。
先日もフィールドスコープ(60倍)での木星観望において、初めて木星をご覧いただいたゲストの方が「ぇ?えぇっ!?動いていく!ゆっくりだけど動いていく!(空を指さして)あそこにある木星ってこんなに動いているの?」とおっしゃいました。はい、動いているように見えるでしょ?でも、もうちょっとだけ考えてください。木星が動いているように見えるのは地球が回っているから(日周運動で)動くんですよ。今、貴方は地球の自転を感じているんです。と諭すようにお伝えすると…

「あぁー!そんな事、考えた事が無かったですー!そうですよね、地球って回っているんですよね!スケールが大きいわ!地球ってこんな速さで回っているんだぁ!」

天体が常に真ん中に停まって見られる状態だと見るのにはすごく便利ではあります。ただ、動いていることに気付くことはありません。初めて天体を見る人にとっては「止まって見えているのが当たり前」と思われることでしょう。

「それでも地球は回っている」(ガリレオガリレイ)

その言葉を実感できるような体験をできるって素敵な事かもしれません。最近の機材(自動導入機・自動追尾など)も便利で使い易いです。それでも、導入や操作が不便な古い機材が「使えない」というものでもありません。

手動で操作できる機材って、地球の自転を感じられるんですもの。

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