こもれび荘かわら版② 初めてのバイト

松田家の長男、和也(18)は、三月に高校を卒業。専門学校入学まで約一ヶ月近くあるので、安くてそこそこうまいと評判の居酒屋でアルバイトをすることにした。
店長は社員だが、従業員のほとんどは和也と同様、アルバイトだという。とにかく、始終忙しいのと少ない人数で回しているのとで、従業員は皆、殺気立っている。
「わからないことがあったら、何でも聞いて」と言われて、聞くと「そんなこともわからないのか」と言われ、仕方がないので自分で適当に判断してやると、「何で勝手なことをするのか。わからないなら聞けと言っただろう」と言われる。それで、また聞くと「見たらわかるだろ、今、忙しいんだよ。あとあと」と言われて、仕方がないので自分で判断して……と、無間地獄に陥っている。友人に話すと、〈アルバイトあるある〉だという。
ひと月経って辞めようと思ったら、「ゴールデンウィークが終わるまでいてくれ」と言われ、もういいかなと5月末に辞めると言ったら「お盆までたのむ」となり、8月末まで頑張ったら「クリスマスまで」と延ばされた。
年末年始も「今辞められると困る、次が入るまでいてくれ」と泣きつかれ、そうこうするうちにすっかり仕事にも慣れ、手順も覚え、バイトの後輩もできた。
和也はなんで辞めたかったのか忘れて、もう一年経つのだから、時給上げてほしいなあと思っている。これも〈アルバイトあるある〉だろうか。

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