没頭

没頭する小説が読みたい。頁をめくるごとに読みたいが加熱していって、目は右頁の字面を追っているのに、脳内映像は左頁に移りたがる。でも字面を辿らないと映像化は難しく、目がキョロキョロ右左と行きつ戻りつ。その日の気分や時間的余裕などにかかわらず、我を忘れてみたい。字面で提示されている以外はないはずなのに、脇役の背景などに心が飛んで行くなどは珍しくなく、脇役の外伝などを思いつつ、勝手に物語をふくらませる。疲れては閉じ、閉じてはまた気になり開く。ついにベッドへ持っていき煌々と灯りをつけて読みふける。気付けば朝になっていて、ベッドで読んだ分は1頁にも足りないことに愕然とする。読んだからといって肥やしになどならなくてよい、ただ面白ければ。細かいことは気にせず、先に先にと進む。すっかり囚われてしまえばなおよい。疑似餌に釣られたバスのようにアプアプ命乞いしながらリリースされるのを待つように。主人公、翻弄されて、おかげでこちらもうろたえて。でも解決はなされず主人公の意のままの邂逅を重ねていく。不幸も仕合わせと思える平凡かつ非凡な仮想現実。あなたの思うがままが滑り込んできて、手にとるようにわかる。わかるだけのもどかしさ。あなた自身じゃなくてよかったとホッとする裏切り。一冊ごときで成長などしなくていいから、あなたは失敗しても死を選んでも何も変わらなくてもいいのだという諦観を得て。わたしは面白かったという満足を得て。

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