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【実体験からガチ考察】大企業の新規事業の失敗要因

こんにちは。
私は普段、歴史をテーマにビジネスを絡めた記事を書いていますが、仕事ではとある大企業で新規事業の立ち上げをやっているので、今回は珍しくその話を書こうと思います。

大企業で新規事業を推進したことがある方には多少なりとも共感いただけると思いますし、これからやっていく方には参考にしていただけたらと思います。


新規事業の失敗要因はニーズがないのにリソース投下するから

いきなり結論ですが、大企業の新規事業が失敗する理由の99%は顧客にニーズがないにもかかわらず、リソース(ヒト、モノ、カネ、そして時間)を投下するからだと感じています。

当然のことながら、民間企業の事業である以上、収益を出す必要があります。収益を出すには、そのプロダクト、サービスに対して価値を感じてお金を払ってくれる顧客が必要です。そのため、事業を成功させるためには、ニーズを持つ顧客がいることが必要不可欠です。

こう書くと当たり前のように感じられるかもしれませんが、実際新規事業をやっていると、ニーズ、それもお金を払ってくれるレベルのニーズを持つ顧客を見つけることは非常に難しいです。むしろ、それが見つけられた時点でかなり成功確率は高いと言えます。

逆に、それが見つけられないと新規事業は上手くいかないと言えますが、顧客ニーズがないこと自体が失敗というわけではないと考えています。これは失敗の定義にもよりますが、新規事業は元々不確実性が高いもので、最初に想定したニーズが無いことはむしろ当たり前なので、それは普通の状態と言えます。

真に新規事業が失敗するのは、そのようなニーズが無い状況にも関わらず、湯水のように人やお金を使ってしまう時なのです。実際、ニーズの検証もまともにできていないのに、新部署や新会社を作り、何人ものメンバーをアサインして、大量の資金を投下する、といったことは私が知るだけでもいくつもあります。こうなってしまうと、まさに穴の空いたバケツに水を入れている状態になり、どこかのタイミングで崩壊してしまうのです。

リーンスタートアップの考え方

そんな状態を避けるために考えられている理論がリーンスタートアップです。元々はアメリカの起業家であるエリック・リースが提唱した考え方で、小さく始めて検証を繰り返し、素早く改善を行なった上で、ニーズがあるとある程度確信できたところでリソースを投下する、といった事業開発を進める上での理論です。これにより、事業開発における不確実性をなるべく減らせることができるとされています。

いまや日本の新規事業界隈でも非常に有名で、私もその信者の一人です。実現できているかはともなく、少なくともこれを常に意識しながら事業立ち上げに取り組んでいます。

知っているのにできないのはなぜか

と、まあここまでは新規事業に関する様々な書籍やセミナーなどで何千回と言われていることです。
しかし、実際には分かっていても結局そうなってしまう(ニーズがないのにリソース投下してしまう)ことがけっこう多いのではないかと感じています。

この記事では、その要因について、実体験も踏まえながら考察していきます。

大企業特有の事情

この現象が起きる要因は、大企業特有の事情が密接に絡んでいると考えています。それをいくつかご紹介します。

「やってる感」を出さないといけない

スタートアップやベンチャーの起業と、大企業での新規事業との大きな違いの一つは、新規事業の他に大きな既存事業があることです。当然ながら既存事業は売上と利益を上げています。そのため、日々の業務があるのが当たり前で、既存事業部門に所属する人はそのタスクに追われていることが多いです。そして、半年や一年ごとにある評価面談においても、自然と何かしら達成したことがある状態になります。

一方、新規事業部門は売上や利益が出ていない状態が普通です。その状態では純粋な日々のタスク量は少なくなります。
また、事業立ち上げの初期に必要な検証は、直線的に進むわけではないため、半年やってみて全く違う方向に切り替える、といったこともよくあります。そうなると、目に見えて何か進んだかと言われると分からないといったことが起きます。

これを既存事業部門や、既存事業で育った役員が見ると、成果を出さずにサボっているように写ります。同じ組織に属している以上、社内の見られ方を気にする人は多く、これに耐えられない人が多い印象です。

そうして、何かやってる感、進んでる感を出そうとして、事業の本質的な進捗、売上や利益にはつながらない謎業務に取り組んでしまいます。そうしてタスクだけが増えていき、人をアサインしたりお金を使ったりということが増えていきます。しかし、本質的に事業が進んでいるわけではないので、結局どこかのタイミングで破綻してしまいます。これは非常に多いと思います。

規模ありきの事業計画

大企業は企業全体の売上が数千億から数兆円ある企業なので、新規事業というと少なくとも数十億、目指すのは数百億、数千億、といったものになりがちです。たしかに本体の規模を考えると、財務にインパクトを与えるレベルの事業となるとその規模感が求められるのは理解できます。

しかし、本業がその事業規模なのは、数十年といった成長期間があること、明確な強みがあって顧客に価値提供できていることが背景にあります。これを忘れ、規模を重視するためには大きな投資が必要と考えてしまうのです。

もちろん最終的には一定の投資は必要ですが、それは価値があることが前提です。それもないままに投資規模の議論が先行してしまい、大きな損失につながるのです。

頻繁な人事ローテーション

大企業では定期的に人事異動が行われます。既存事業においては有効に機能していると思われるこの制度も、新規事業においてはかなりのマイナス要素になります。

理由はいくつかありますが、大きなところでは、短期的な成果を追いがちになること、リーンスタートアップの思考法を身に付けていない人が担当になってしまうこと、が挙げられます。

一点目については、大企業あるあるなのは数年で担当が変わっていくことです。そうなると、その任期中さえ良ければ良いという考え方になりがちで、中長期で事業を本質的に進めるよりも、とりあえず短期的に上手くやってる感を出せば良い、となります。上記のやってる感にも近いです。

二点目については、新規事業の進め方は大企業の既存事業とは全く異なります。しかし、その進め方を理解するには、例えばリーンスタートアップの書籍を3周くらいして、かつ実際に事業立ち上げを少なくとも1周くらいはする必要があります。数年ごとに異動しているとそれを経験できません。
特に新規事業部門だと目に見える成果を出すことが難しいが故に、失敗を繰り返して実際には成長しているメンバーも、他部門から見るとただただ失敗しているだけにしか見えず、異動の対象となってしまいます。経理や法務といった部門には長年その部署にいるベテランがいることが多いですが、新規事業部門では全員が素人ということも珍しくありません。これでは立ち上げは難しいです。


経営トップの新規事業へのコミットと現場メンバーの本質志向へのコミットが重要

ここまで失敗要因を考察してきましたが、ではどうすれば成功するか、について現時点での私の持論を述べます。

表面的なテクニックは色々あると思いますが、根本的には経営トップの新規事業コミットと、現場メンバーの本質志向へのコミットが非常に重要だと考えています。

普通にやっているとキャッシュを稼いでいる既存事業部門の方が強いという社内力学が働くのは目に見えています。そのため、経営トップが新規事業をなんとしてでも進めるという意思表示とそれに伴う行動をすることが必要です。そしてそれは役員や管理職への理解浸透や事業判断軸の設定、人事制度の改革などにまで踏み込むものであるべきです。

トップのコミットもありつつ、ボトムである現場のコミットも必要です。周りからどう見られようと、本質的に事業を進めるために、顧客課題に向き合い続けることが必要です。目先のそれっぽい成果やタスクに惑わされることなく、事業の成功につながるためのアクションは何かを本気で考え抜くべきです。


新規事業にも歴史は有効

以上が私が実際に新規事業の立ち上げを通じて感じたことをまとめた内容です。ただ、まだ私も事業立ち上げに成功したことがないので、成功した方からすると違う景色が見えているのかもしれません。もしこのような考え方もできる、といった意見があればぜひコメントください。

最後に、あえて歴史を絡ませた話をすると、新規事業の立ち上げにも歴史を学ぶことは有効です。歴史を学ぶことで、どのような社会変化があり、その中でどのようなニーズが生まれてきたかを知ることができるからです。
このあたりはまた別の記事でも詳しく話ができればと思います。

長文お読みいただきありがとうございました!

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