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絶えず書く

2023年10月13日
 校正と文献表を戻す。これでしばらくゲラはこない。コロナ禍の前から書き始めた。編集者と台北の街で構想を練った。すぐに書き始めたが、何度も最初から書き直した。いつまでも書けないかもしれないと思っていたが、書き上げることができてよかった。
 森有正の「愛は自由を求めるが、自由は必然的にその危機を深める」(『城門のかたわらにて』)という言葉を引用したのだが、長年、『砂漠に向かって』にある言葉だと思っていたのが間違いだったことが編集者の指摘でわかった。
 確認するために全集を取り出したら読み始めてしまった。森の書いているような手記を書いてみたいと思った。
 ある日、森はカフェで、上衣の内ポケットから赤青紙のノート・ブックを取り出して書き始める。
「ノートをつけていると何となく気がしずまるので、やり切れない時はいつもそうすることにしている」(『砂漠に向かって』)
 辻邦生が次のように書いているのを思い出した。
「私が『絶えず書く』ということを自分に課したのはいつ頃からであったか、いまは正確に記憶はない。ともあれピアニストが絶えずピアノをひくように、自分は絶えず書かなければならない―かつて私はそう考えそれを実践していたのであった」(辻邦生『パリの手記1』)
 辻は相当な「書き魔」で、片時も文字を書いていないと生きていけない人だった(辻佐保子『辻邦生のために』)。自分の力ではどうすることもできない天性のものだと、半ば諦め、覚悟を決めたと辻佐保子は書いている。
 私は書いていないと生きていけないほどではないが、一日書き続けていることがある。書いていない時は、本を読むか、考え事をしている。
 私は頭に浮かんだ考えを書き留めても、自分について書くことはあまりない。日記もあまり書かない。ここに書いたら読む人がいるかわからないが、しばらく日記を書いてみよう。

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