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アメリカにブラック企業はない――ホワイトカラーである限り、WEB上以外には

どうも、キシバです。
日本にはブラック企業が多いと言われて名高く、働き方改革を経ても生き残るそうした会社は少なくないと噂です。しかし実際のところ、本当に比較しても海外にはブラック企業がないのでしょうか? 例えば、アメリカには?
そんな疑問をふと覚えたので、簡単に調べてみました。

1.途上国、欧州、アメリカ、日本のそれぞれ

まず前提として、途上国と日本の労働時間は長い欧州はホワイトアメリカは労働時間が長いが報酬も大きい、という一般論があります。これは基本的には経済協力開発機構(OECD)が発表した世界労働時間ランキングに基づくもの。……厳密には、「日本にはサービス残業が多いからこれはアテにならない」というツッコミを勘案して、そういう定説になっています。

世界労働時間ランキング(OECD)
https://www.globalnote.jp/post-14269.html

途上国の労働時間が長い、というのはイメージ通りでしょうし、実際に少し調べただけでいくらでも事例が出てきます。工場労働から一次産業まで、キツいお仕事が珍しくありません。中国や韓国は新興国と呼ばれる立場で経済規模は大きいものの、こうした傾向は同様です。日本より労働時間が長い場合も普通にあります。ただし途上国のいくつかは経済発展が伴い、収入の向上などが見込めるため、同じ仕事をするなら日本より前向きに働ける場合もあるかもしれません。

欧州の労働環境がホワイト、というのも有名な話で、長期のバカンスなど充実したワークライフバランスが整っています。これは歴史的に、欧州が途上国だったたくさん働きたくさん稼ぐ、という時代が遠い昔であることが一因かと思われます。(産業革命期のイギリスはブラック労働の温床でした) 北欧なども優れた福祉が注目されていますが、翻って東欧のリトアニアやベラルーシ、ロシアは自殺率が世界トップクラスに高いそう。気候の寒さやソ連時代からの影響でしょうか?

日本の労働環境については、気質や文化的に古くから仕事中心の生活が一般的だったことや高度経済成長期には働いただけ儲かったものが、景気低迷に伴い労働時間は長いのに収入は少ない、という悲しい顛末に起因していると考えられます。とはいえ働き方改革は近年稀に見る成功を収めた施策だと感じていて、特にIT業界では不夜城と呼ばれた富士通が政府の号令で一転してホワイト化したりもしました。(国内の分析については詳しくやると長くなるので、またいつか)

そしてアメリカの労働時間が長いが報酬も大きい、という説は前述の世界労働時間ランキングに由来していましたが――結果的には、三つの結論が得られました。以下の三つです。

①アメリカはホワイトカラーとその他の差が激しい
②多民族・多文化国家であるために、法の効力が大きい
③アメリカでは「WEBサービス残業」が中心的

2.アメリカはホワイトカラーとその他の差が激しい

例えばこちら。カラパイアさんと言えば娯楽的な記事で有名ですが、それでも明確にわかることがあります。それは6つ挙げられている事例のすべてがブルーカラーであるということ。

これがアメリカのブラック?劣悪な環境で従業員を働かせていた6つの企業と国家
http://karapaia.com/archives/52120087.html

アメリカにブラック企業はあるのか? というネット上の質問には、大抵「日本のようなブラック企業はない、定時を過ぎて残ると無能と思われる」という回答がついています。

しかしそうした回答者や記事の執筆者は、まず例外なく「日本からアメリカに移って働けるほど優秀なホワイトカラー層」という選択的バイアスがかかっている、という点にも注目できるでしょう。(少なくとも、ブルーカラーの視点で話している記事は今のところ発見できませんでした)

トランプ大統領の就任以降、何かと「分断」というフレーズがアメリカで話題になりますが、アメリカは自由の国であると同時に格差の国でもあります。国民皆保険制度が無い点なども有名ですが、「成功できなかったのは本人の実力が無いのが悪い」と見なされる傾向にあります。

工場労働者や倉庫労働、漁業などアメリカにもブラック労働と呼べるものはあります。これらの仕事を不法移民や低所得者層(かつては有色人種、黒人の比率が高かったものの、今は『負け組』であれば白人でも関係ありません――平等な実力主義社会)が担っています。

ホワイトカラーであってもブラック企業が見られる「ちょっとずつ不幸」な日本と比べ、「勝ち負けが絶対」なアメリカではハッキリとした人生の明暗が分けられている、というのが一つの視点と言えそうです。

3.多民族・多文化国家であるために、法の効力が大きい

これは完全に以下のnoteに由来した視点で、とても興味深いものでした。

そして、理解しておくべきことは「アメリカは移民で構成されている国」ということ。
様々な人種、国籍が混在している場所では、慣習的な共通認識(コモンセンス)といったものがないため、法の効力が非常に強いのです。

引用すると、主に上記のような傾向があるとのこと。これは単一民族国家としての歴史が長い日本で少し前まで法よりも慣習、共通認識が優先されがちだったのとは対照的ですね。国家単位の民族的性質という意味でも、これはとても興味深い指摘でした。

訴訟大国と呼ばれているのも、アメリカ人的な闘争心の強さだけでなく、ここにも起因しているのでしょう。

4.アメリカでは「WEBサービス残業」が中心的

そしてこちらはなるほどと思うような話でした。以下は2014年と2017年の記事ですが、リモートワークの話題が盛んに出ていてまるで今年の出来事のようです。

アメリカこそ「ブラック企業大国」? 有休制度なし、週65時間労働…(2014)
https://careerconnection.jp/biz/todaytopics/content_1599.html
リモートワークの弊害?世界労働時間ランキングからアメリカ人の働き過ぎ問題で思うこと(2017)
https://savvy-life-savvy-style.com/working-hours-ranking/

アメリカではコロナ以前からリモートワークが普及していました。そして前述した通り、「アメリカでは定時を過ぎて働いていると無能と見なされ」ます。つまり人事評価が下がり、キャリアに悪影響があるのです。

多ければ退社後や週末を含めた週72時間をメールチェックに費やすとのことで、残務は家でPCを使って片付けることもあるそうです。

日本では「残業をつけずに偽装して会社に残る」というパターンのサービス残業が多い日本に対して、サービス残業に追われる場合、アメリカでは「いかにも仕事が片付いた風を装って定時退社し、家で片付ける」という偽装が求められるとのこと。これは結局のところ、文化的慣習の違いでもありますね。

5.おわりに

「そもそも何万という数の会社があるのに、そのすべてがホワイトだなんて統計的にあり得ないのでは?」という疑問が調べてみようかと思ったきっかけでした。

今回はあくまで三十分程度で探せる範囲の調べ方でしたが、それでもアメリカの労働環境における傾向は調べる前よりは見えてきたように思います。

結局のところ、平均すれば日本よりはアメリカの労働環境は良いかもしれません。特に報酬の面では、そもそも経済が上向きなので全体の傾向としてはやはり羽振りが良くなります。

とはいえ日本にだってホワイト企業が当然存在するように、アメリカだって楽園というわけではない、と今回の結果からは言えるでしょう。基本的に「○○は全部が素晴らしい! ××は全部がダメ!」という大雑把な二元論は、あまり賢い考え方とは言い難いものです。

企業に限らず、何らかの良し悪しを判断する時は多角的に比較検討して、全体の傾向と個々の区別はつけるように意識していきたいですね。

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