大家さんとサイクリングにいく
随分とここから離れてしまっていたように感じる。それは前回本編を執筆した8月21日からおよそ2ヶ月の休載を経たからではない、と感じる。おそらくフランスに来てしまったからだ。随分と遠くに離れてしまった。赤穂の日々はあまりに眩しい思い出となってしまった。
あのアパートから見える水平線はもうここにはない。代わりに今この窓から見えるのはフランスの街並み。
これからの人生でおおよそ転地療養中の赤穂ほどのゆったりした時間はもう訪れないのではないかと感傷的な気持ちになる。もちろんいいことばかりではなかったが、恐ろしいまでにゆっくり過ぎる時間、街まるごと凪なあの町。
そんな赤穂は将来もうなくなるかもしれない。「いまさら」としか言いようがないが、赤穂が人気の少ない地元民の憩い「海浜公園」の観覧車やなんやかんやを撤去し、グランピング施設を量産しようと画策していると知ったのは私たちがあの街を出る数ヶ月前だった。そんなふうにかけがえのない風景がまたありふれたものに移し替えられていく。グランピング施設が廃墟にならず、誰かのかけがえのない風景になることを切に願う。もしくはそんな具だらない計画にも流されない「凪」力を赤穂が持っていることを願う。
そんな感傷的な気持ちを携えつつフランスからこの連載を再開しようと思う。
大家さんからの誘い
移住サイトなどでよく見かける
「畑仕事など誘ってもらいました!」
などと、こちらが尻込みするほどの笑顔で野菜を両手に抱えて楽しそうに集合写真を見るたびに
「あぁこういう生活は嫌だな・・・」
と捻くれていた私だ。そんな私にもその機会は訪れた。
ある日、大家さんから
「片上鉄道のサイクリングロードに一緒に行きませんか?」
とLINEがあった。話を聞くと息子と息子の友達と一緒にサイクリングに行くから一緒に行かないかという。
「ん?・・サイクリング?」
なんだか想像していたのと違う。しかしどうも大家さんは年齢の割にはムキムキの筋肉質で窓から見かけても常に小走りでアクティヴな人だった。
ワケを聞くと彼は学生時代ウェイトリフティングの選手だったらしく、そこいらの芸人のように昨日今日、筋肉を蓄えたわけではないらしかった。
私と妻は相談し「是非行きたいです!」と答えた。
和気町サイクリング
大家さんとLINEを重ねると、どうもそのサイクリングロードは和気町というところにあるらしい。和気町は赤穂ではなく岡山県だそうだ。
赤穂は岡山県の隣なので以前にも書いた「日生」や「和気町」は車で30分くらいあればすぐ着く。また書くかもしれないが妻はこの和気町がたいそう気に入ってその後、何度も何度も遊びに行った。
そんな和気町だが実際行くまではお笑いコンビ「見取り図」のリリィの地元らしいという情報以外はほとんど知らなかった。
駅前からのびる片鉄サイクリングロードは廃線になった線路がそのままサイクリングロードになっている。駐車場は1日100円。私たちは大家さんの軽トラに自転車を積んで行ったが、町役場に行けばレンタサイクルもある。サイクリングロードなので車にぶつかる心配もないし、電車が通るトンネルを抜けたり高く切り立った山肌を抜けたりと景色も素晴らしく、かなりゆったりサイクリングできる。途中途中には実際の駅舎が残っていて休憩スポットや映えスポットになっていた。
ムキムキ大家さん、大家さんの息子(細身)、大家さんの友達(鞄に旭日旗のバッジがついていた)、そして私と妻の5人。
赤穂に京都からやってきて、そこからさらに岡山の知らないところに連れられてきてみんなで自転車を漕いでいる。
我ながら転地療養にきたとは思えない快活な状況で少しニヤニヤしてしまった。
和気町のサイクリングは春の風が心地よく、往復2時間ほどのサイクリングだった。帰宅後足はヘトヘトになったがとても良い思い出になった。このあと和気町にはお気に入りのうどん屋にお好み焼きや、温泉など何度も何度も訪れた。
大家さんがサイクリングに誘ってくれなければ和気町には出会えなかった。
さいごに(単なるあとがきなので本編ではないです。)
長い休載を経ても、どうでもよくならず、またやってきて読んでくださりありがとうございました。これからも毎週更新目指しますが、なにぶんフランスでの研究生活は赤穂での凪生活に比べると随分、不確定要素が多いように感じます。それでもよければ振り落とされずに読んでください。しかし今日は思っていたより分量を書いてしまいました。冗長冗長。色々溜まっていたものがあったのだと思います。サポートしてくださっている方、重ね重ねありがとうございます。何度言っても言いたりません。文章を読んで「面白い」と感想をくれた方もいました。それは本当に嬉しいことです。
ご存じの方もおられるかもしれませんが当方、人並みか、それ以上の承認欲求を兼ね備えているのでサポート、いいね、フォローなどリアクションいただけたらもちろん嬉しいですし、頑張って書こうという気持ちになれました。
それではまた来週お会いしましょう!
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