見出し画像

愛媛に行ってみる

私たちはまず旅行がてら愛媛県へ向かった.愛媛出身のおおらかな知人もいたし、温暖な気候と何より海があった.宇和島にある海沿いの民宿を予約した.もう随分前のことに感じるが、そう、その時はコロナウィルスの感染拡大が徐々に広がっていた頃だった.

ただでさへ人が少なそうな所へ来て、当時まだまだ詳細不明のウィルスが流行し出したとあって人はかなり少なかった.

予定していた韓国旅行をキャンセルしたことも手伝い、愛媛の幸を最高に楽しんだ.この時、生まれて初めて蜜柑の味のバリュエーションや奥の深さを知った気がする.宿泊した民宿のおかぁさんは継いで欲しい蜜柑農家さんはたくさんあるんじゃないか?と優しく、そして非常にライトに相談に乗ってくれた.

愛媛には道後温泉という有名な温泉もあったし湯治もできるか、などと呑気なことを考えていたが、私たちは結果的に愛媛を療養の地に選ぶことはなかった.愛媛旅行は楽しかったし、またいつか行きたいほどには気に入った.しかし道後温泉温泉周辺は私たちの想像以上に都会で、宇和島周辺は思いの外、海辺だった.そこへアクセスするための道路は車がすれ違えるかどうか程度の細い一本道あるだけだった.

私たちの療養の地を探す道のりはなかなかに難航した.海辺には海辺の仕事がある.私の仕事は作業療法であり、それ以外には役に立ちそうもない体たらくなので、アルバイトでもいいから作業療法士の仕事がないと食うものも食われず、療養中に本当のホームレスになってしまいかねない.

ホームレスになるのは、ほんの些細なきっかけなんだろうなと感じていたし、今でもそう感じている.何か劇的な体験や災厄が降り掛からなくてもホームレスにはなりうる.

幸いにも私は作業療法士として勤続10年ほど働いていたので、退職金と失業保険というあてはあるにはあった.

しかし仕事が全くなさそうなところへの引越しは、かなりリスクが高かった.どうにか仕事の「可能性」がある町に行く必要があった.他の町へと、また行くことになった。

いろんなところでどん詰まりはあるから、私のケースが、読んだ人にピッタリ当てはまることはきっと難しい.今考えると仕事を辞めて知らない町に移り住むことに不安はあったし、ケアには、それぞれ必要なもの、個別性があると思う.こうしたらいいという正解はないのだから、色々試すしかないわけだけど、そうした個別性を見極めることは必要なことだ.とりあえず転地療養(までの)のあてどない日々は続く。


*全文公開で、投げ銭で有料設定してみました。何個か読んでみて、気に入ってもらえたら投げ銭支援をお願いします。

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?