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猫へのバースデーカード

「HAPPY BIRTHDAY ルルちゃん 6歳」と書いたハガキが、どうぶつ保険の会社から届いた。毎年、3週間前にこうやってバースデーカードが届くと、私は猫の誕生日を思い出すことができる。

ルルは私が実家を出てから初めて一緒に暮らした猫だ。生後半年で私のところにやってきて、それからずうっと一緒にいる。旅の多い私が、猫のお世話なんてできるだろうかと思っていたけれど、何とかなるものだ。さまざまな私の不在を、ペットホテルの利用やキャットシッターさんの協力で乗り越えてきた。

今ではひとりと5匹の暮らしだけれど、ひとりと1匹の生活から始まっただけに、私はルルの気持ちや伝えたいことがわかるし、ルルには私の言いたいことがわかっている、と思っている。「うにゃあ」「うん?」「ゴロゴロゴロ」「ん」という、言語なき言葉を日々、交わしている。

それでも、もっといろいろと話したくなることもあり、時々、私は彼の長い毛を撫でながら「私たち、おしゃべりできたらいいのにねえ」と話しかけている。

猫に届くバースデーカードは自分のこと以上にうれしくて、毎年、健康に育って私のこころを支えてくれてありがとうね、という感謝の気持ちが湧いてきていたのだけれど、今年は違った。「6歳」という数字を見て私は突然、不安になったのだ。

一緒に暮らし始める前には知らなかったことだけれど、7歳になれば猫は老齢に入るのだそうだ。カリカリだって7歳以上専用のものがあるし、どうぶつ病院ではシニアと呼ばれ、ペットドックでは勧められる項目の数が増える。

やんちゃでいつまでも子どもだと思っていた相棒は、今、たくましく私を支えてくれているけれど、近いうちに私の年齢を追い越し、いつかは虹の橋を渡ってゆくだろう。そのことを今まで、思い出さないようにしてきたのだ。でも本当は、少しずつ、少しずつ、覚悟を育てていかなければならないのかもしれない。

ねえ、どう思う、と聞いてみたのだけれど、ルルは哲学者のような顔をして黙って私を見るだけだった。

ルル。FUJIFILM X100vにて撮影。


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