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臆病な自尊心、尊大な羞恥心

昨日、ちょっとしたインタビューを受け、最後の一問一答に「最近泣いたのはどんな時でしたか」というものがあった。「あまり考えずに答えてください」と言われ、とっさに私が答えたのは「中島敦の『山月記』を読んで」だった。

あまりにも有名なこの短編を、最近ふとしたきっかけで「青空文庫」で再読した。人食い虎になってしまった元官吏が、明け方の山の中でかつての親友と再会する話だ。

私の心に突きつけられたのは「臆病な自尊心と尊大な羞恥心」という言葉だ。元官吏は、自分がこのように醜い姿になり次第に人の心を失ってゆきつつあるのは「我が臆病な自尊心と、尊大な羞恥心との所為である」と述べる。

虎が月を仰いで咆哮し、身を翻して姿を消す最後の場面で思わず号泣してしまった。時既に遅しと言えど我が身の行く末を悟った元官吏に共感したからか、丁寧にその話を聞いたかつての友に安堵したからかはわからない。

私は臆病な自尊心と尊大な羞恥心のおかげでもはや虎になっていないか。それから繰り返し自問し続けている。

Photo by Adi Ulici on Unsplash

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