【ショートショート】イライラする挨拶代わり

「こいつは挨拶代わりだ！」
不良のクニオは喧嘩相手に拳を振り上げたが、その手が横から掴まれる。掴んだのはスーツを身に着けた堅物そうな男性だった。
「私はマナー講師のマナオです。出会い頭にいきなりの攻撃はマナー違反ですよ」
「はあ！？　喧嘩にマナーとかあるかよ」
「人と人のやりとりがある以上、そこにはマナーが発生するのです。まずはしっかりと相手の目を見て……そうそう、良くできてます」
「いや、これガンつけてるんだが」
クニオの言葉を無視してマナオは満足そうに頷く。
「次はお辞儀が大事です……うん、良くできていますね」
「いや、これ頭突きで張り合ってるだけなんだが」
「遠慮がちに上目遣いになっていてポイント高いですよ」
「いや、これ睨みつけてるだけなんだが」
「うん、上出来ですね。ではお教えしたことを踏まえてどうぞ挨拶代わりしてください」
クニオはすっかり毒気を抜かれてしまった。
「もう普通に挨拶したほうがいいわ。よろしくお願いします」

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