【ショートショート】カフェ4分33秒

　カフェという場所は心地よい静寂の中で落ち着いて過ごす空間であるべきだ、との思いを以前から抱いていた私は、新しくオープンさせたカフェに「カフェ4分33秒」と店名をつけた。店名の由来はもちろんジョン・ケージの曲からだ。4分33秒という時間は絶妙だと思う。見知らぬ人同士を二人きりにしたときに、沈黙に耐えられる時間は5分が限度だという説を聞いたことがある。逆に言えば4分33秒以内であれば人は沈黙できるのだ。だから私はこの店に一つだけルールを設定した。
それは店内に滞在出来るのは4分33秒間だけというルールだ。
「店長」
「何だね」
「もうやめませんかこのルール」
「なぜだね。静寂のためにはこれが一番なのだよ」
「それ、本気で行ってます？」
バイトが店内を指し示す。4分33秒という短い時間に注文の品の提供を間に合わせるため、大勢のバイトがフロアを駆けずり回っている。店内は彼らの足音で騒がしくとても静寂を楽しむどころではないのだった。

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