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【ショートショート】クリスマスの忘れ物

「ねえ、なんでこのケーキ屋さんはクリスマスツリーをまだ片付けないの? もうクリスマスは過ぎちゃってるよ」
 無垢な瞳をした少年にそう話しかけられて、店内の掃除をしていた私はピシリと固まった。そういえば片付けろと言われていたツリーを店の外に出しっぱなしだった気がする。私は少年を引き連れてツリーの所まで行き、「MerryCristmas」と模られたオーナメントにちょっとした細工をする。
「ほら、ここに小さくハッピーニューイヤーって書いてあるでしょ? これが書いてあると新年まで飾ってもいいルールなのよ」
「ふーん」
 私の説明に頷きはしたものの、いまいち釈然としていない様子の少年だったけど、売れ残りのクッキーを握らせたらあっさりと帰っていった。
「ほほう、いつまでも片付けない上にそんな落書きまでしてたとはな」
 怒気を含んだ言葉を浴びて、私はおそるおそる振り返る。そこには私の雇い主であるところのこのケーキ屋のオーナーが立っていた。
「オ、オーナー、聞いてたんですか……? あはは、は」
「正月出勤のお年玉ボーナスを出そうかとおもってたんだが、まだクリスマスならそれはいらないな?」
 その言葉が終わらない内に私は大慌てでツリーの撤収を始める。とんだクリスマスの忘れものだった。


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