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【ショートショート】君の笑顔は

「はぁ……」
目の前で幼馴染が何度目かのため息をついている。私は半ば義務的な気持ちで彼に問いかける。
「しっかしアンタも懲りないわね。これで振られたのは通算何度目になるのかしら」
「12回目……」
うつむきながら彼が答える。もうそんなになるのか、と私は心の中でつぶやいた。彼は見た目も悪くないし仕事も医者で収入も申し分ない。
だが、決定的にデリカシーに欠けているのだ。
「それで? 今度はなんて言って振られたの」
「君の笑顔はトラネキサム酸だねって」
「あのねえ、考えてみなさいよ。女子が化学物質に例えられて素直に喜ぶと思う?」
私が呆れたように言うと、彼はバッ、と勢いよく顔を上げて反論してきた。
「いや、だって止血作用もあるし、美白にも使われるんだよ? 複数の効能を持つトラネキサム酸に匹敵するくらい素晴らしい笑顔ってことじゃないか」
「……アンタがもてない訳は良くわかったわ」
私は鏡写しのように何度目かのため息をついたのだった。



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