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【掌編小説】Love is Reality
目覚ましのアラームが鳴る。テレワークの導入で通勤がなくなり、朝の時間を有効に使えるようになったので、ゆっくりと朝食を摂り、日課の英会話の勉強を済ませる。
さて、今日はメタバース会議室で打ち合わせがあったな。
自室でゴーグルを頭にかぶり、グローブを手にはめる。VRシステムを起動してバーチャル会議室へと入室。すでに他の参加者は入室していて、3DCGの会議室の中に思い思いの姿をしたアバターが佇んでいる。
「これで全員ですかね?」
「まだコハルさんが来てないですね」
誰かがそう言ったところで、急に目の前が真っ暗になった。
「うわっ、なんだ!?」
僕の耳元で慌てた女の人の声がする。
「あわわ、すいません。座標を間違えましたっ」
その言葉で僕は何が起こったのか理解した。この声の主がおそらくコハルさんなのだろう。彼女が座標設定を間違えてログインした結果、僕とコハルさんのアバターが同じ場所で重なってしまったのだ。冷静に考えれば彼女が一度ログアウトをするのを待てばいいのだけど、焦った僕はやみくもに手を振り回してしまう。
「あっ」「えっ」
すると振り回した手のひらが何か柔らかい物に触れる感触がした。これは……誰かの手? にぎにぎと握りしめたところでようやく僕は気がついた。いま僕が使っているビジネスコミュニケーション用のVRシステムは、アバター同士で握手が出来る機能がついている。だからこれはコハルさんの手の感触のはず。
「あの……そろそろ手を離してもらえますか」
困ったようなコハルさんの声。言われて僕はずっと彼女の手を握っていたのだと思い至る。
「あっ、す、すいません。柔らかかったもので、つい」
焦った僕は言わなくていいことまで言ってしまう。VRで良かった。これで対面だったら真っ赤になった顔を全員に見られていただろう。VRでなければこんなハプニングも起こらなかったわけでもあるけど。
さて、結論から言うとこれがきっかけで僕とコハルさんはお付き合いを始めることになった。僕が告白したのもメタバース上でのことだった。「まだ直接お会いしたこともないのに、私でいいんですか」と不安そうなコハルさんに僕はこう言った。
「見た目なんて関係ありませんよ。僕はコハルさんの中身が好きになったんです」
「あはは。そう言われると照れますね」
僕の言葉を受けて照れくさそうにアバターの彼女は微笑んだのだった。
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