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ジャンプ作品を読んで考えるバトル漫画の第一話でやるべきこと

先日締め切られたジャンププラスの原作大賞に応募するにあたって、ジャンプ作品、特にバトルものの一話で描かれている要素について共通項はないだろうかと考え、いくつかの作品について自分なりの分析をしてみました。
分析する中で学びも多かったので記事にしたいと思います。

さて、まず結論から言うと、大きく分けて以下の4つが共通の要素として提示されていると考えました。

■バトル漫画第一話の共通要素

①主人公のモチベーション(主人公のキャラクター)
②戦うべき敵
③一話内でのカタルシス
④次話への引き

①主人公のモチベーション:主人公がどういう理由で行動を起こすのか、原動力となるものはなんなのかという点です。これは主人公のキャラクター性にも通じるポイントになるかと思います。
②戦うべき敵:言わずもがな、作品中で主人公が戦う相手です。作品の途中で変わることもあるかもしれませんが、一話の時点で主人公が倒すべき相手になります。
③一話内でのカタルシス:一話の中できちんと盛り上がりがあるかどうかです。これがないと読者が面白い物語がどうか判断ができず、次の話も読みたいと思ってもらえないことになります。
④次話への引き:次話を読みたいと思わせる仕掛けがあるかどうかになります。未解決の謎や意味深なセリフ、次に起こる事件を思わせるものなどになります。

では具体的に各作品の一話の流れと上記の要素がどこに含まれているかを見ていきたいと思います。対象作品はワールドトリガー、チェンソーマン、怪獣8号、呪術廻戦、鬼滅の刃の5作品になります。


ワールドトリガー

回想シーン、迅に助けられる修。
三門市への近界民の侵攻とボーダーの説明:【戦うべき敵】
修の学校での様子。真面目なメガネキャラ。
不良たちの描写。→ (ヘイト蓄積)
遊真の登校の様子。車との衝突で全く無傷なところを見せて遊真の能力を描写。
→(警官に名前を訊ねさせることで自然に遊真に名乗らせる)

学校に遊真到着。
再び不良たちの描写。遊真の指輪が校則違反と指摘して外させようとする。
拒否する遊真。
修が事情があるはずとフォロー。
→(修のキャラ立てとともに遊真と修とのつながりを作る)
指輪は形見だと告げる遊真。
疑う教師に「本当です」と告げる遊真。不気味な瞳のアップ。
→ (遊真のキャラ立て。軽い調子とのギャップ)
慄いて立ち去る教師。担任から修に遊真のことお願いとのセリフ。
→ (しれっとした描写ではあるが遊真と修とのつながりを補強している)
教師がいない隙に遊真へ不良たちの嫌がらせ。
→(ヘイト蓄積)
反撃する遊真:【カタルシス】
→(カタルシスと同時に遊真が好戦的な性格であることを修の口から言わせる)
遊真「つまんないウソつくねお前」→(遊真の決め台詞)放課後に修と遊真で帰宅。
→(ここまでの描写によって二人が一緒に帰っていることの説得力を持たせている)
不良たちの呼び出し。
反撃もあったので遊真だけの呼び出しだが修が止めに入る。
→(修のキャラ立て)
あっさりと不良たちにやられる修。
立入禁止区域との警告をするが無視される。
→(近界民出現の伏線)
助けてやれよという不良に対して「メガネくんが自分から首突っ込んできたんだから自分でなんとかしなきゃ」と告げる遊真。
→(遊真のキャラ立て)
遊真に棒で殴りかかる不良。あっさりと受け止め足を潰す遊真。:【カタルシス】
→(足を潰すことで動けなくなることの伏線)
突如現れる近界民。:【戦うべき敵】
足を潰された不良の一人が捕まってしまう。
助けに向かう修。
「なんでお前が助けに行くんだ」との遊真の問いに
「ぼくがそうするべきだと思っているからだ」→(修を象徴する決め台詞)
:【主人公のモチベーション】
と答え、トリガー起動を唱えて近界民へと立ち向かっていく。
:【カタルシス】
しかし実力が足りずにやられてしまう。
それを見てトリガーを起動し、修がやられた敵を一撃で倒す遊真。
遊真と迅のイメージをオーバーラップさせる修。
改めて「メガネくんじゃない。三雲修だ」と名乗る。
「そうか オサムか」と言いながらニッと笑う遊真。
戦闘後、トリガーを保有している遊真についてボーダーの人間だったのかと理解する修に対して、「自分は近界民」だと告げる遊真。:【次話への引き】


展開が丁寧で描写に無駄がない。こうやって見てみると、さりげない描写にきちんと意味があることがわかる。修と遊真が絡む理由づけ、不良が逃げ遅れる理由づけなどがしっかりと描かれている。また主役二人についてもことあるごとに丁寧にキャラ立てをおこなっていることがわかる。

チェンソーマン

デンジの独白。→(自分の臓器を売るほどに借金に塗れた状況だということがわかる)
ポチタの登場。
悪魔の登場:【戦うべき敵】
テンポよく瞬殺される悪魔。
ヤクザの会話でデンジの借金の事情とヤクザとの関係を開示
→(ヤクザに対するヘイトの蓄積)
タバコを飲むのを全く厭わないくらいデンジが金に困っている描写。
小屋の中でのデンジの独白。
「食パンにゃジャム塗って食うらしいぜ」「女抱いてから死にてえな」
:【主人公のモチベーション】
→(一話オチへの伏線)
回想、デンジとポチタの出会い。
デンジからポチタへの契約、お前を助けるから俺を助けろ
→(一話クライマックスで回収)
夢の話:【主人公のモチベーション】
ヤクザの裏切り。→(ヘイトの蓄積)
ゾンビの悪魔の登場。
デンジの死。
ポチタの回想。デンジの夢、普通の暮らし、普通の死に方。
ポチタからデンジへの契約、心臓をやる代わりに夢を見せてくれ
デンジの覚醒。取り込まれたヤクザごと悪魔を倒す。:【カタルシス】
マキマ登場。
デンジ「抱かせて」:【主人公のモチベーション】
→(チェンソーマンとなった後もデンジのパーソナリティは失われていないことの証明)
マキマ、公安のデビルハンターという設定を開示:【次回への引き】
マキマの条件 食パンにバターとジャム、サラダ、コーヒーにデザート
→(デンジのモチベの伏線回収、ヤクザとの対比。悪魔として殺されるか人として飼われるかの二択は決して良い条件ではないのだけど、デンジのモチベの伏線とヤクザに対するカタルシスがあるので読んでいる側も自然と受け入れられる)


まず第一にデンジのモチベーションが非常にシンプルでわかりやすい(金、美味いメシ、女)。ジャンプ本誌では描きにくいキャラクターではあるが、今時の悩むキャラとは一線を画して逆に新しいキャラ造形となっている。次回以降は美味いメシというモチベは解消されるため、モチベの中でも女の占める比率が多くなる。回想が複数回入るので一見複雑な構成だが、実際はかなりシンプルな構成となっている印象。デンジの苦境とヤクザの悪辣さがわかりやすく描かれているのでカタルシスも大きい。

怪獣8号

怪獣大国日本:【戦うべき敵】 →(世界設定の開示)
倒される怪獣。
第三部隊と主人公の対比。
日比野カフカ、主人公の紹介、独白のナレーション。
怪獣の体液で負傷するメンバー。
→(危険な仕事であることの開示とカフカのベテラン感の演出)
第三部隊の紹介、亞白ミナとの対比。
回想
ミナ「二人で怪獣を全滅させよう」:【主人公のモチベーション】
カフカ「なんでこっち側にいるんだろ俺…」
市川レノ登場。
防衛隊に入隊希望→(カフカとの対比、ヘイト蓄積)
腸の解体作業に二人とも当てられる。
「なんだかんだ立ち向かっていくんだよね」→(カフカのキャラ立て)
レノに昼食を渡すカフカ→(カフカのキャラ立て)
レノとの和解と防衛隊挑戦への状況設定。:【カタルシス】
余獣の登場。
→(和解から一転、突然の危機という緩急)
身を呈してレノを助けるカフカ。→(カフカのキャラ立て)
レノに助けを呼ばせ、一人残って余獣に対峙するカフカ。
回想
怪獣に家も学校も破壊された過去。
助けにくる市川、無力さに苛まれるカフカ。
第三部隊の救援、亞白ミナとの対比。
病院で一人悲しむカフカ。市川の不器用な感謝に対して防衛隊への挑戦を決意するカフカ:【カタルシス】
謎の小怪獣、カフカに寄生する。
怪獣の姿になってしまうカフカ。
驚く市川とカフカ、通報されてしまう。
市川「逃げますよ先輩」:【次話への引き】


一話時点ではカフカはただの一般人であり怪獣を倒す力はない。そのためカタルシスは怪獣を倒すことではなく、生意気な市川に認められる、感謝されることが対象となる。市川がヘイトを溜めるのと同時にカフカのキャラ立てを丁寧に行なっている。怪獣になってしまう、という展開は次話への引きが強い。

呪術廻戦

百葉箱に「特級呪物」がない、という事態→(設定の開示)
伏黒と五条の会話。
オカ研でコックリさんに興じる虎杖。しかしオカ研が追い出されそうになる。
虎杖の所属が陸上部であることが判明。顧問と陸上部の入部をかけて勝負へ。
ラグビー場に現れる伏黒。呪いの登場:【倒すべき敵】
砲丸投げで驚異的な能力を発揮する虎杖。
5時までに帰らないといけない、オカ研が好き、虎杖の事情。
呪物の気配を虎杖から感じとる伏黒。
病院で祖父と面会する虎杖。
祖父「オマエは強いから 人を助けろ」:【主人公のモチベーション】
祖父の死。
病院に現れる伏黒。呪いの説明。虎杖が持っているのは箱だけだった。
夜の学校で呪物の封印を剥がしてしまうオカ研の二人。
校舎内に出現する呪い。
伏黒が校舎へ乗り込んでいく。一人残るが祖父の遺言を思い出す虎杖。
呪物をもつオカ研部員を伏黒が見つけるが間に合わない。
飛び込んでくる虎杖、部員を助ける:【カタルシス】
呪いの不意打ち、伏黒がやられ校舎外に呪いが逃げる。
伏黒と共闘して呪いに立ち向かう虎杖。「人を助けろ」がフラッシュバックする。
手詰まりの状況で呪物を飲み込む虎杖。
両面宿儺が覚醒し、呪いを一撃で倒す:【カタルシス】
暴れ回ろうとする宿儺を虎杖の意識が止める。
伏黒が「呪いとして祓う」と虎杖に宣言する:【次話への引き】


主人公が一話のラストで変貌してしまうという点では怪獣8号と似た展開で次話への引きが強い。主人公のモチベーションについては次話でも引き続き展開されるが、現時点では割と弱い印象。虎杖のキャラクターデザインとしては不良っぽいが、内面は優しい青年となっており、たとえばデンジとは真逆の方向性。状況に順応するタイプ。

鬼滅の刃

禰󠄀豆子を背負って雪山を行く炭治郎。→(ホットスタート)
回想
炭治郎と家族の描写。→(主人公のモチベーションの背景)
町へ出る炭治郎。匂いで皿を割った犯人を猫と特定する。
→(「鼻が効く」という能力の開示。あっさりと信頼される描写から実績があることがわかる)
町の人から手伝いを頼まれる炭治郎。→(優しい人格であることの描写)
夕方、山に帰ろうとすると炭治郎を三郎爺さんが引き止める。
「鬼が出るぞ」→(【戦うべき敵】の示唆)
鬼狩りの存在を提示。
三郎爺さんを慮る炭治郎。→(炭治郎のキャラ立て)
翌朝、家に戻ると禰󠄀豆子以外の家族が殺されている。
冒頭のシーンに戻る。
禰󠄀豆子を背負い山を降りる炭治郎。
鬼化する禰󠄀豆子、炭治郎を襲う。
匂いから「いつもの禰󠄀豆子ではない」と考える炭治郎。
炭治郎の説得に涙を流す禰󠄀豆子。
禰󠄀豆子に襲いかかる義勇。間一髪で禰󠄀豆子を庇う炭治郎。
→(戦闘センスが優れていることがわかる)
禰󠄀豆子を奪い、殺そうとする義勇。→(ヘイト蓄積)
きっと禰󠄀豆子を元に戻すと必死に説得する炭治郎。:【主人公のモチベーション】
説得できずに土下座する炭治郎。
義勇「生殺与奪の権を他人に握らせるな」
炭治郎を罵倒することで奮い立たせようとする義勇。→(モノローグ多め)
禰󠄀豆子を刀で刺す。
石を投げつける炭治郎、木の陰で斧を投げ上げて義勇へ攻撃。
→(戦闘センスが優れている描写。自分が斬られても禰󠄀豆子を助けようとする炭治郎のキャラ立て)
驚く義勇:【カタルシス】
炭治郎を庇う鬼化した禰󠄀豆子。義勇「こいつらは何か違うかもしれない」
禰󠄀豆子を気絶させる義勇。炭治郎が起きたところで鱗滝左近次を訪ねろと告げて去る。:【次話への引き】
家族を埋葬した後、山を降りていく二人。


鬼の存在を匂わせているものの、一話の段階では登場しないため、この話の中では義勇がヘイトを貯めており、炭治郎が一矢報いることがカタルシスとなっている。家族思いの優しい青年であることを何度も描写させることで、主人公のモチベーションに説得力を持たせている。また義勇の初太刀を避ける、木の陰を使った目眩しなど炭治郎の戦闘センスが優れている描写もされている。戦うべき敵、主人公のモチベーションは物語の最終話までぶれることがなく、最初からわかりやすく設定されている。

いかがでしたでしょうか。
こうして見てみると、ジャンプラ掲載作品は特に戦うべき敵がいち早く提示されていて、話の展開が早くなっている印象です。これは誌面連載とネット掲載との違いかもしれません。

ここで分析しているのはストーリー、話の展開だけですが、漫画作品ですからコマ割りや場面の切り取り方や見せ方も分析していけば更に色々見えてくるのではないかと思います。
(ストーリーを作って絵も描ける漫画家さんは凄いと改めて実感……!)
ストーリー分析はとても勉強になったので今後も続けて行きたいですね。

お読みいただきありがとうございました。

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