【ショートショート】七夕ロマン
大学のオカルト研究会の部室から外をぼんやりと眺めていたら、どこから持ってきたのか、短冊が大量にぶら下がった笹を持って歩くグループが見えた。そうか、今日は七夕だったっけ。
「織姫と彦星って、1年に1回しか会えないなんて可哀想ですよね。いっそのこと織姫が彦星をさらっちゃえばいいのに」
そんなことをつぶやいたら、会長の東條先輩が反応してきた。私に向けて諭すように言う。
「轟ちゃん、考えてみて。織姫はベガ、彦星はアルタイルって星なのは知ってるわね?」
「まあ。小学生の時にクラスの行事でプラネタリウム行ったとき以来の知識ですけど」
「その星はね、どちらも寿命が数十億年以上あるのよ。例えば仮に80億年だったとして、1年に1回ということは80億回になるわね。これを人間の寿命80年に当てはめると1秒に3回は会うことになるわよ。会うっていうか常に一緒にいないと成り立たないわね」
うんうん、と分かったように頷く東條先輩。私はときめきの欠片もないその言葉を取り繕うように言う。
「ほらでも、それだけ頻繁に会うってことはやっぱり熱々のカップルってことですよね」
するとそれまで黙りこくっていたもう一人の同好会員である宗像先輩がぼそっとつぶやいた。
「まあ、表面温度はどちらも一万度くらいあるみたいだしな」
「ほんと、そういうとこですよ」
私は理系のくせにオカルト研にいる変わり者の先輩方に聞こえないようにこっそりとため息をついたのだった。
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こちらの3人、他の作品にも登場します。そちらもぜひ。
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