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鐘の音が響く間

鳴る。
鳴る。

最後の鐘が鳴る。

「やっと来た。」
思わずそうつぶやき、ふと思う。
やっぱり待ってたのかな。
この時を。楽になれるこの時を。

眩しいほど輝く暗闇の中で。
ぼんやりとそんな事を思った。

ふと振り返ると、君がいて。
しゃがみ込んでうつむき、耳を塞いでいた。
跪きその小さな手をそっと掴んで、耳から引き離す。

ポンポンと頭を撫でて顔を近づけた。

「君のだと思った?残念。あれは僕の鐘の音。」

にこりと笑って、安心させようとした。
でもうまくできてないのかな?

君はまだ不安顔。


「あぁ、君にあげる物があるんだ。ぜひ使ってよ。」

何も持っていない僕が、たったひとつ持っているもの。
でもそれは目を閉じてからにして下さい。

何度も何度も思ったんだ。
いつもいつも考えてたんだ。

君にあげる。
ささやかな。本当にささやかな。

君に救われた僕が贈る、ちょっとしたプレゼント。
心がこもっているようで、こもっていない。

君の手を強く握る。少し震える。

それで君が助かるのなら。
そう思うのは本当だけど。

そうでもないんだ。
君の為じゃなく。自分の為。
だから

「安心して。」

いつものように、おでこを合わせ君の頬を包んで。溢れる涙を唇で受ける。
…ほのかにしょっぱい。
鐘の音が消えるまで。この味で満たしていたい。全てで君を感じながら目を閉じていきたい。


「泣かないで。歩いて行って。」

僕を置いて。忘れて。


だって僕は。君がいない世界なんて興味がない。
君のいない時間に価値はないし。
僕の全ての時間は、1分1秒惜しみなく。君と共に。君の為に使うと決めている。

だからね、ちょうどいいんだ。

無駄にしないでね。
君が望まなくても僕が望むから。

「わかってる。」

望まれていない自己犠牲。昔からそうだ。ずっと同じ事を繰り返してきた。
それをいつも君の為だなんて言いながら、本当は自分の為で。弱すぎるこの心をなんとか正常に保ってきた。


そのまま鐘の音を聴き続けて。


あぁ。僕が悲しそうに微笑んでいるうちに。
なんとか悲しそうに微笑んでいるうちに。

満面の笑みにならないうちに。

さぁ、急ごう。

君が気づかないうちに。
僕の弱い心に気づかないうちに。

「愛してる。」

僕も君も、それに気づかないうちに。早く。


この鐘の音を僕のものにしないと。


君はこの先の希望だけを見て。
僕はこの先の絶望だけを見る。


必死になっても。どんなに頑張っても。
進んで行ったって。
前を見たって。

その先に君はいないのだから。



そういうこと






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