聞く「目的」は明確か:共テ リスニング第5問(講義)の改善策
今年度の共通テスト英語リスニングに取り組んでみました。残念ながら第5問で一つ不正解を出してしまい、満点とはいきませんでした。今回は共通テスト英語リスニングを解いてみて考えたことをまとめてみます。
よろしければこの投稿の英語版もご覧ください。 #英語で日本の英語教育を語ろう というマガジンを勝手に作成して投稿しています。
「目的・場面・状況」が明確な良問
全体的に、共通テストリスニングは良問だと感じます。とりわけ、学習指導要領でも強調されている「目的・場面・状況」の設定が明確な問題が多い点が評価できます。
例えば、第3問は単純な内容一致問題ではありますが、日本語記述による「場面」の設定と英語での質問が予め与えられているので、何を聞き取ればいいかの「目的」が明確になっています。
「目的・場面・状況」の明確な設定は第4問Bにも顕著です。「あなたは~です」という状況設定が自然かどうかはさておき、standardized testとしてできる最大限の「目的・場面・状況」設定を施した良問だと思います。
第5問(講義)で一問落としてしまったワケ
冒頭で書いたように、私は今回第5問(講義)でひとつ落としてしまいました。完全な負け惜しみとなりますが、第5問について批評してみます。
第5問について、実際に取り組んでみてまず感じたのは、限られた時間の中で問いにあらかじめ目を通すことが非常に難しいということです。「状況」や「ワークシート」には目を通せても、問32「講義の内容と一致するもの」を選ぶ問題の選択肢までしっかりと読むことは非常に困難です。
また、「選択肢の先読み」は、私は個人的には推奨していません。というのも、話を聞く前に選択肢の文を読んでもどうもピンと来ないことが多く、逆に選択肢の表現に引っ張られて理解が歪められてしまうことも多いと考えるからです。
そういうわけで、私は実際にこの第5問に取り組む際、「状況」と「ワークシート」の記述内容だけをサッと確認した状態で講義を聞くことになりました。聞き終わってから解答し、問27から問31までは順調に正答を選べたのですが、問32の解答で間違えてしまいました。
問32は「講義の内容と一致するもの」を選ぶ問いでしたが、講義の全体像と矛盾しない記述を選ぶ問題でした。ワークシートの内容、つまり細部を聞き取ることに集中しすぎて「全体像」を把握することに努めていなかったので、この問いへの解答は非常に困難でした。
正答できなかった言い訳、負け惜しみになりますが、第5問の問題冊子上の構成として「ワークシート」がはじめに示され、問27から問31までがワークシートを埋める問題ということで、私の中ではこの講義を聞く際の主要な目的が「ワークシートを埋めること」、そしてそのために「細部を聞き取ること」になってしまいました。その結果、問32で「全体像」に照らし合わせて解答する問題に答えられなかった、と自己分析しています。
第5問(講義)の「目的」は?
「聞く」という活動において、「目的」はたいへん重要です。もちろん特に何の目的もなく聞くときもあります。TVドラマ中の登場人物の会話を聞いているとき、誰かが話しているのを漠然と聞いているときに、明確な「目的」を持って聞いているわけではないと思います。リスニングテストにおいても、例えば英検などにあるような会話の内容を理解する問題では、会話の内容を聞き取ること自体がある意味目的でしょう。
しかし、ある程度まとまった分量の英語を注意深く聞き取る際には、何かしらの「目的」をもって聞かなければ、聞いている英語のすべてを記憶にとどめることはできません。例えば第4問Bでは「あなたが考えている条件」に合った文化祭の出し物を「選ぶ」という目的が明確です。
学習指導要領では「聞くこと」の目標の中で、「一定の支援を活用すれば,必要な情報を聞き取り,概要や要点,詳細を目的に応じて捉えることができるようにする」(英語コミュニケーションⅡ)という記述があります。「目的」があってはじめて「概要や要点,詳細」を聞き取ることができるのです。
では、第5問の講義を聞く際の「目的」は何でしょうか。上述の通り、私は「ワークシート」を埋めるための細部や要点を捉えるという「目的」に引っ張られすぎてしまいました。問いの構成として、もう少し「概要」の把握も促すような指示を受験者に与えられないものでしょうか。
「内容一致問題」の問題点
「目的」の観点から考えると、問32のような「講義の内容と一致するものはどれか」という指示のいわゆる「内容一致問題」はできるだけ避けるべきではないでしょうか。
上述した通り、限られた時間の中で各問いの選択肢まで「先読み」をすることは困難です。選択肢にきちんと目を通せば、この問題は講義の全体的な概略・概要を把握しているかを問う問題であるとわかります。しかし、選択肢に十分目を通せない状況では、「内容と一致するものを選べ」は何の指示にもなっていません。選択肢次第で、細部の情報と照らし合わせる問題にも、講義の概要を尋ねる問題にもなりうるからです。
「内容一致」問題は、聞く際の「目的」を明確にできない。ゆえに学習指導要領で書かれている「必要な情報を聞き取り,概要や要点,詳細を目的に応じて捉えることができるようにする」という力を測る問題にはならない、というのが、私が指摘したい内容一致問題の問題点です。
改善策は?
上記のような(負け惜しみという名の)批判を踏まえて、改善策を考えてみます。
一つの方法は、問32を「講義の要旨として適切なものを選べ」という問題にして、設問としてこの大問の最初に持ってきます。これによって、概要(要旨)を押さえながら、かつワークシートを埋めるために細部も聞き取る、という「目的」が明確になります。もっとも、問32に示されている選択肢の文はどれも講義の「要旨」には思えませんので、この改善策を実行するとしたら選択肢も変更する必要があると思います。
問32の選択肢をそのまま使うとするならば、指示文を「講義の全体的な内容に矛盾しないものを選べ」のようにするのはどうでしょうか。「全体的な」の部分が重要で、これにより指示文を見ただけで細部の内容一致を問うているわけではないことが伝わり、解答しやすくなるのではないでしょうか。
リーディングとの統合問題は?
上の改善案は、私自身が第5問に取り組む際、「ワークシート」を埋めるために細部を意識しすぎて全体像を把握しそびれたことへの負け惜しみでした。「細部だけでなく概要も押さえて聞きましょう」という「目的」を受験者に明確にしてあげることで、私のような誤りをする人が減らせるのではないでしょうかという提案です。
そもそも講義を聞くときには全体像を押さえながら聞くのが当たり前ではないか、という批判もあるかと思いますが、本当にそう言い切れるでしょうか。もちろん講義のタイプにもよりますが、大学などの講義では多くの場合い、事前にテーマは示されていて、課題読書などにより講義内容の全体像は「予習」を前提としていることもあるのではないでしょうか。(日本の大学においてそれがスタンダードとは思いませんが。)
そう考えると、このような講義の聞き取りはリーディングとの統合で出題できるといっそうauthenticになるのかもしれません。
センター試験から共通テストに移行する際に、せっかくだからリーディングとリスニングを統合してしまえばよかったのに、と思います。もちろんオペレーション上の問題はあると思いますが、スピーキングの導入ほどの難しさはないでしょう。
話が大きくなりすぎました。ほぼ自分の負け惜しみの文章であり、どこまで建設的な提案ができているか分かりませんが、最後までお付き合いくださりありがとうございました。
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