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かぐや姫は地球に行きたい 1ー17

 姫の絶叫がきっかけだったのか、謁見室の扉が大きく開かれた。王の使用人がわらわらと入ってきて、一斉に姫を取り囲む。

「袖と懐を」

 短く王が指示を出せば、使用人たちは、ショックで動けないでいる姫の両腕を持ち上げ、袖口を下にして軽く揺さぶる。袖口からボロボロと落ちてくるのは、薬品瓶や、得体の知れない物体やポーチなど多数。同時に懐からも容赦なく、姫の隠し武器が抜き取られていく。

「父上!? 何を!」

 ようやく放心状態が終わった姫が抵抗を始めるが、腕自慢の使用人が集まっているのか、流石の姫も敵わない。

「出発は今すぐ、このまま直行だから、身支度をしているんじゃないか」

 淡々と説明する王に、姫は目を剥いて叫ぶ。

「なんと姑息な! これでは丸腰じゃないですか!」
「いや、元々、王の前には丸腰で来てほしいんだけど」

 痺れ薬やら何やら、そこらじゅうに仕込んでる人に、姑息呼ばわりされる筋合いはないと、王は呆れた目を向ける。姫の袖から落ちてくるものがなくなっても、依然として姫は、尊厳を保たれつつも確実に拘束されていた。肩や腕にやたらと優しく添えられている手は、僅かでも不穏な行動をすれば、力強く抑えつけてくること間違いなし。

「……私の部屋に、地球までくらい航行可能な船があります。せめて、それを使ってはいただけませんか?」

 両手を上げた姫は、さも控え目な態度で願い出るが、王が絆されるわけがない。

「籠に乗せないと罰の意味ないじゃん。ってか、そんなもの自室で作らないの。さ、さっさと乗せて」

 いつの間にか姫のすぐ隣には既に、戸付きの籠が用意されている。王の指示に従い、姫にかけられた手に力がこもる。全力で暴れるものの、姫はあっさりと籠に収容され、素早く戸が閉じて外側からロックがかかる。この音には、いくら姫でも、自分が今から籠に乗って地球に行くという事態を受け入れざるを得ない。

「地球で筋トレして、誰よりも強くなってやる!」

 そんな捨て台詞を吐いても、誰も反応してくれない、ただ真っ暗な籠の中。

「私も見送ろう。担ぎ人に頼みたいこともあるし」

 そんな王の言葉が聞こえたかと思えば、姫は体がふわりと浮く感覚がした。ゆらゆらと揺れ動く暗闇。予想のつかない縦横の揺れに、ぐるぐるとしてくる脳内。

「気持ち悪っ。だから嫌なのよ」

 吐きそうになりながら、姫は手探りでお団子風にまとめた髪を解くと、いざという時のために髪の中に隠していた睡眠薬を口にする。だが、王が地球への運搬を担当する担ぎ人と何を話すのかも気にはなるので、いざという時のために隠しておいた超小型の録音機を作動させ、握りこぶしの中に入れる。
 姫の乗った籠が、月の玄関口に着く頃。姫は気持ち悪さを上回ってきた眠気に身を委ねた。

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