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血のかよったモノ。
形から入ることをやめます。
今後一切。
何かを始める時、たいていは始めるに当たって準備しなければならないことがいくつかある。
一つに道具を揃えるってのがあると思うのだけれど。
そのフェーズにおいて、「形から入る」人たちは少なくないのではないかな。
「形から入るタイプ」と自称したり呼称されたりする僕らは、
例えば絵を描き始めるに当たって分厚いテキストとヨーロッパ産の高級絵の具を購入し、本職の人たち同様のハイクラスなツールを揃える。
例えば言語を学び始めるに当たってたくさんの「初心者おすすめ教材」の中から説得力のあるもの、権威あるものを選び揃える。単語部門、文法部門、発音部門、リスニング部門、、、各部門で同様の購買プロセスを踏んでいくことになる。
そして往々にしてこの時間はとてもとてもとっても楽しいもの。
やるぞ!と決めた自分の勢いは衰え知らずだと確信。
初期投資はしぶっちゃダメだと、どこかの誰かが言ってた気がする。
次々と手元にやってくるのは憧れのあの人と同じモノ。
買い揃えたピカピカの相棒たちは勇ましくその時を待っている。
その時を待ち、待ち続けて、その輝きが少しくすんだ頃にどこかに売られたり誰かに譲られたりしてしまう。
始めた後で何かが不足しているのが怖い。
事前に全て揃っていないとなんか集中できない。
やる気を折らないための起爆剤として。
そんな想いで、何を買うか、から物事が始まる。
もしかしてこの特性はあんまり良くないのかなあ、でも不安で手につかないのはもっと良くないだろう。
「とりあえず手の届く範囲でやってみたら?」とはいうけれど、そのとりあえずが踏み出せない。
そんな折に出会ったある人の道具。
その道具には血が流れていた。
その人の持つカメラは、手に吸いつくように握られていて、
その人の持つペンは、指と一つになって美しく伸びやかに線を引く。
彼女がノートを開く時、インク、紙、そして上に置かれたその指までもが自分の居場所と役割を理解してそこにある。
瞬間を捉えて残したいと話すその人は、自分にはどんな道具が必要なのかを知っているのだ。
たくさん撮ってたくさん描いて書き残してきたから、
そうして初めて自分にとって一番の道具がどんなものか、何が必要なのかをはっきりと理解することができる。
彼女の持つ水彩絵具のセットは携帯性に優れていて、みたものをインスタントに出力したい彼女にとって、片手で操れるその画材は他の何にも変え難い丁度のもの。
小さいのに、そこには必要なものが全て揃っている、宿っている。
モノたちは皆自信にみなぎっていて、程よい具合に擦れくたびれたその表情はとても格好いい。
こんな風に血の通ったモノ選びができたらどんなにいいだろうと思う。
必要にかられるその時まで、自分にとって必要か否かは決してわからないもんな。
必要なんだとどれほど叫ばれたって関係ない。
手を動かし続けた人だけが道具と一体になれるのだ。
ものと自分とが、おんなじリズムで拍動するような、そんな状態がどこかに必ずあるのだよ。
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