続デジタルカメラでフィルムを再現する(Pro400H、Portra400)
2024.2.17 末尾にPortra400のポートレート作例追加
(前の記事の「デジタルカメラでフィルムを再現する」を読まなくても、そのままお楽しみいただけます)
前回は自分の手持ちのフィルム写真とデジタル写真を比較して、富士フイルム業務用100、富士フイルムPro400H、Kodak ColorPlus200をデジタルカメラで撮影した写真での再現を試みました。
上手くいったのもあんまりだったのもありましたところ、改めてフィルム・デジタル撮影をしてきましたので、作例や簡単なコメントを掲載していきたいと思います。
今回の対象は、
富士フイルム Pro400H(生産終了)
Kodak Portra400(現行品)
というISO400の感度では2大巨頭のフィルムで、いつもの「カメラはスズキ」さんでおまかせ現像したものとなります。
なお、Pro400Hは2022年1月で使用期限切れのものであり、かつ暗い場所ですが室温で保管しておいたものなので、完全な状態の色味・コントラストではない可能性があることはご留意ください。
まずは作例から見ていきましょう!フィルム・デジタルの順番になります。今回は風景中心(+ポートレート少々)になります。
1 富士フイルム Pro400H
今回はあらかじめ物撮り用の照明付きボックスでフィルム・デジタルの両方でカラーチャート・グレーシートを撮影しています。
そしてそれらをPCに取り込んで現像ソフトで分析をしてみたところ、以下のような感じでした。
・トーンカーブを見るとPro400Hの特徴なのか、あるいは期限切れだから、暗部は若干白く浮いたような感じになっています。また、ハイライトの上限も若干暗めに抑えられています。
・また、極端に暗部が落ち・ハイライト部が上がるといった強いコントラストはなく、ヒストグラムは比較的なだらかな形状となっています。
・色味について、全体的に青・緑が若干強めに出つつ、ハイライト部でRGBの数値が緩やかに収束するような色味になっています。
これらを踏まえ、以下の通りPro400Hのプリセットを作成します。
・トーンカーブで、最暗部を持ち上げ、輝度の最高値を下げます。その際、暗部・中間部の青・緑が若干強めになるようにします。また、トーンカーブの形状は緩やかなS字型を取ります。
・HSLについて、緑色の色相はかなり青色に寄せ、また、輝度をがっつり上げます。黄色・オレンジの色相については、赤方向に寄せる感じで、かつ輝度を上げることで、淡い感じになっています。
そして、作成したプリセットをデジタル写真に適用した上で、実際のフィルム写真と対照して、WBや輝度等を微調整して合わせていきます。
いかがでしょうか?結構雰囲気は寄せられているような気もしますが。
ただ、フィルムのシャドウ部分の方が若干寒色系によっていますね。右側の壁の部分もデジタルは少々赤っぽく、避難誘導との緑も明るく・鮮やかに見えます。
こちらは半逆光で、少し白く浮き上がっている感じの写真です。実はデジタルはけっこうきっちりとコントラストが出ていたので、暗い部分を少し持ち上げています。
全体的にはあっているような気持ちもしつつも、緑のニュアンスが若干異なっていますね。
なお、HSLのオレンジを明るくし、緑の色相を青寄り・彩度を高めています。
このように自然光のカラフルな景色では、より細かな修正が必要になってきます。
こちらは上手くいったような感じはします。
デジタルでは若干暗部を持ち上げつつ、手前の枯れた芝生の色(オレンジ)を若干黄色寄りに色相を修正しています。
最後にポートレートをご覧ください(モデル:夢乃はるさん)。
これはめちゃくちゃ上手くいったパターンですね。自分でも混ぜられたら判別できません。というか自画自賛ですが、最初のフィルム写真は最高ですね、これでレタッチ無しとは信じられないです。。。
なお、元のPro400Hのプリセットではコントラストが強すぎたので暗部を持ち上げているとともに、暗部に少し緑色を足しています。
赤色っぽいポートレートになります。もともと鏡の周りの壁の色がピンク色だったので、顔もピンク色がかっています。
デジタルも似たような色味ではありますが、なんとなく諧調だったりトーンがフィルムに比べて弱いような気がします。
最後に、窓際の自然光でのポートレートです。
肌色や本棚の淡い緑色はOKですが、明らかにカーディガンの色味が違いますね。フィルムはもう少し青色に寄っています。
やっぱりフィルムの再現は、まだまだ細かいニュアンスが異なることが多く、また、あっちを立てればこっちが立たず状態で、そのバランス調整が非常に難しいです。
ちなみに、フィルムの現像が上がってくる前にレタッチした写真がこちらです。
自分の写真なのに恐縮ですが、ぶっちゃけ嫌いではないです。
風景は自分の中では冬の夕方の暖かな日差しが印象に残っていたので、特に室内の写真は自分の記憶(≠忠実な記録)と一致します。
また、ポートレートは絵画・アンティーク調にしたかったので、(下手で恐縮ですが)そこは自分の狙い通りのレタッチになっています。
2 Kodak Portra400
実は初めて使いました。先日のフィルム記事を作成する際にフィルムを見直してたら、改めてフィルムって最高だな〜と思い、現存する最高峰のネガフィルムでの撮影を体験したくなったためです。
Pro400Hと同様にあらかじめ物撮り用の照明付きボックスでフィルム・デジタルの両方でカラーチャート・グレーシートを撮影します。
そしてそれをPCに取り込んで現像ソフトで分析をしてみたところ、以下のような感じでした。
・ヒストグラム・RGBを見ると、暗部は最暗部近くまでしっかり落ち、ハイライトも十分明るいです。また、暗部・ハイライトの落差が大きいことからコントラストも強くなっています。
・色味について、暗部が青緑が強く、ハイライトは赤が強く出ます。中間部のRGBは同程度でニュートラルな色味になります。そのことから、Kodakで一般的にイメージする黄色味が強い感じはありませんでした。
・一方で、富士フイルムとの違いは精細さにあります。自分は風景はf5.6ぐらいで撮影していますが、コントラストが強く見た目ははっきりとしているものの、細部を拡大するとあまり解像していません。富士フイルムはPro400Hだろうが業務用100だろうが、実はしっかりと解像しています。
・粒状感については、かなりソフトで隠し味程度です。そのため、いわゆるフィルムっぽいノイジーな感じはあまりありません。
これらを踏まえて、以下の通りPortra400のプリセットを作成します。
・トーンカーブで、暗部の青・緑を若干強めに、また、RGB全体の輝度を抑えめに。ハイライトは、赤を若干強めにつつつ、RGB全体の輝度を上げる感じで。輝度範囲は256段階だとすると、最暗部は10くらい、最明部は253ぐらいに、幅広に設定。
・粒状感は弱めに隠し味程度。シャープネス・明瞭度・ストラクチャはがっつりと下げる感じ。
・HSLについて、緑を若干青寄りにして彩度は少し高め輝度は少し暗く、青は紫方向に少し寄せ彩度は少し高め輝度は少し暗くします。
そして、作成したプリセットをデジタル写真に適用した上で、実際のフィルム写真と照らし合わせて、WBや輝度等を微調整して合わせていきます。
全体の明暗のコントラストやシャドウの青緑等、なんとなくのニュアンスは再現できているのではないでしょうか。
一方で、床や右手の壁の茶色の部分は若干異なりますね。フィルムの方が少々緑がかっているような気がします。
全体的な雰囲気は良い感じじゃないでしょうか。ただ、デジタルの緑は若干彩度が薄いような気がします。おそらく彩度を上げつつ、色相をもう少し青に寄せれば、フィルムにさらに近づくような気がしますが、その場合は中間部・暗部の緑に影響が与えられないように注意する必要があります。
これは難しかったし、完全にはほど遠いですね。
左下の樹木のハイライトの緑色は先ほどの通りですが、アスファルトの色を一致させられませんでした。デジタルは若干色が薄いのですが、この部分を濃くしようとすると他の中間色に影響が出てしまい、全体が崩壊してしまうためです。
そのため、アスファルトについては涙を飲んで、全体の整合性を保つ選択をしています。
あと、今思いましたが、標識の青色がデジタルは若干鮮やかですね。
逆光の中で白く浮いた場合は、全体のカラーバランスが崩れるので、単純にプリセットを当ててWBを調整しただけでは難しく、一層フィルムに合わせるのが難しくなります。
しかも、デジタルには逆光に強い最新鋭・最高峰のNikonの単焦点レンズを付けています。
そのため、デジタルにおいてはカラーホイールで全体的に赤・マゼンダ方向の色味を少々強めに足しています。
全体的な色の感じは合ったものの、空については、フィルムは若干黄色味をおびています。また、ベンチの裏側は少々赤めになっています。
また、フィルムの少し浮き上がった感じを再現するために、デジタルには若干フェード効果を足しています。
最後にポートレートをご覧ください(モデル:夢乃はるさん)。ただ、事前に風景を撮影し過ぎたため、作例は1つだけです。。。
結構上手くできたような気もします。
ただ、プリセットそのままだと金髪の少し緑っぽい微妙な色合いが出なかったので、ハイライトの黄色の色相のみ結構緑色に寄せています。
実は、Portra400は3本買っているので、あと2本はしっかりとポートレートを撮り、ちゃんと分析して追記していきたいと思います!
ちなみに、最後のポートレートについて、フィルムの現像が上がってくる前に行ったレタッチは以下の通りです。
夕方の撮影だったので、ハイライト部に夕方の暖かい日差しは残しつつ、業務用100もどきのプリセットを使って暗部は寒色系にして、色彩においてもコントラストを出しています。こちらも手前味噌ながら、フィルムのPortra400と比べても、好きなレタッチになります。
風景はこんな感じです。
室内の写真は、若干ノスタルジックに。屋外の写真は、芝生の緑色を全体のベースカラーとして、かなりフェードを効かせています。今見ると緑色過ぎるような気がしますが、ちょっと海外の写真っぽくて好きです。
3 終わりに
(1)Pro400HとPortra400の違い
最後に改めて富士フイルムPro400HとKodak Portra400の作例で比較してみましょう。正確な日時は異なりますが、どちらも2024年1月の晴れの日の13:00-15:00の間に撮影された写真です。
これまでの分析やこれらの写真を比較すると以下のような違いがあることが分かりました。
・明暗のコントラストや輝度の幅広さはPortra400が圧倒的に上。ただし、Pro400Hにはフェード感やコントラストのゆるさに起因する優しい心地よさがある。
・色調については、暗部は寒色系の似たような傾向だが、ハイライトはPortra400は赤っぽく、Pro400Hは寒色系。そのため、Pro400Hの白色は視覚的にはよりピュアに見える。Portra400のハイライトの赤っぽさは、欧米人(白人)の青白い肌をより生き生きと見せるためなのかもしれませんね。ポートレートの輝度の高い金髪(黄色)部分が少し緑っぽくなっていたのも、金髪がより印象的に写るからでしょうか。
・シャープさや明瞭度については、Pro400Hはかなり精細。一方で、Portra400は細部を拡大すると案外解像していない。
・粒状感は、Pro400Hは心地よさはあるが強め。Portraは隠し味ぐらいにしか感じない。
以上、雑駁に比較しましたが、どちらが良いという訳ではなく、ISO400フィルムの2大巨頭ではありながらも、全く異なる特徴を持った素晴らしいフィルムと分かりました。個人的にはPortra400がPro400Hの代替にならないかなと勝手な期待を持っていただけに、特徴が違い過ぎていて少し残念ですが笑
ちなみに、以前にもPro400HとPortra400とを比較された方がおられますので、ご参考までにリンクはこちらです。
(2)デジタルカメラでフィルムを再現しようとすることの自分にとっての意義
また、以上を踏まえて、富士フイルムPro400HとKodak Portra400の再現を試みましたがいかがでしたでしょうか?
各色の微妙なニュアンスは更なる改善が必要ですが、最低限の雰囲気は再現できているような気がします。
一方で、明るさやWBが変わった時には、フィルムにおいてはより複雑に各色が変化するような気がしています。そのため、一定の明るさ・WBが管理された環境で撮影されたカラーチャート・グレーシートのフィルム・デジタルデータをベースにプリセットを作っても、全ての環境に適用できる訳ではありません。なので、完璧にフィルムと色彩を合わせるならば、一定のプリセットをベースに、毎回フィルムのデータとデジタルデータを付き合わせていく必要があります。
私自身はフィルムの色味が好きで、自分のデジタル写真に取り入れたいと考えていますが、フィルムの色が絶対とは考えていません(そもそも、前の記事で述べた通り、自分はポートレートを撮影するので、元々のフィルムの色彩にこだわらず、実現したい理想的な肌色のトーンを優先したいという考えです)。
また、毎回毎回、同じ環境でフィルムとデジタルで撮影する訳ではないので、上記の通りフィルムを完全に再現することは困難であり、現実的ではありません。
重要なのはフィルムのプリセットを作成する中で、その味・特徴を理解して、柔軟にデジタル写真に取り入れていくことと個人的には考えます。
自分自身が実現したい写真を把握し、また、フィルムの特性を理解できれば、また一歩自分の理想の写真に近づけるような気がしています(+現像ソフトの挙動の把握や光・色彩理論等の理解)。
実際、前回・今回のフィルムのプリセット作りを通じて、逆に自分なりの実現したい写真の色味を改めて把握できましたし、現像ソフトのより深い理解にも繋がりました。そして、フィルムの味を活かした自分なりの写真の姿も少しだけ見えてきたような気がします。
以下の写真は、フィルム、フィルムプリセットを当てたフィルム風にした写真、フィルムプリセットをベースに撮影時の印象をもとに自分の好きなように現像したものとなります。
フィルムはフィルムでとても良いのですが、自分は最後の写真が一番好きだし、その時の記憶を一番反映しているような気がします。まあ、自分が暖色系が好きなだけなのかもしれませんが。
ということで、フィルムの分析なんだか自分語りをしたいんだか、なんだかよく分からなくなってきましたが、デジタルカメラでフィルム写真を再現しようとする試みは、色彩の理解とレタッチソフトの使い方の向上、そして自分なりの写真を見つけるのにとても有用なのでおすすめです。
特に、デジタル写真の現像に行き詰まっている人は、フィルム写真と撮り比べるだけで、同じ光景でも全く別なアウトプットになるんだと思い、めちゃくちゃ感動・参考になりますよ。
では、良き撮影ライフを!
(4 その他参考作例)
Pro400H
Portra400
(以下、2024.2.17 作例追加)
model: 夢乃はるさん
model: 乙乃萌愛さん
model: 一ノ瀬りおさん
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