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ないと思っていたけど、あった

 20時、運動不足を解消するため、散歩に出た。

 しばらく歩いて違和感を覚える。身体の調子が悪いのか? 
 多少なまってはいるけれど、問題ない。不思議に思って、周囲を見渡して気づく。

 暗いのだ。
 いつもは明かりに照らされている道が、闇に覆われている。月も生憎と曇り空に隠れてしまっている。通り沿いの店は半分以上に張り紙が貼られ、街路灯の明かりは飲み込まれそうだ。
 普段あると思っていたものが失われるのは、不安と恐怖が伴う。

 ふと、水の音が聞こえた。近くを流れる川の音だ。少し気の早い虫の鳴き声もした。

 あるものが失われる時、その陰に隠れていたなにかが顔を覗かせる。物事は、「ある」か「ない」かではない。たくさんの「ある」が重なり合って、形成されている。

 人の生活という分厚い皮が剥がされた時、自然の息吹を感じた。
 耳を澄ませ、目を凝らし、鼻をヒクつかせる。ないと思っていたものはちゃんとそこにある。

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