花火したい
なにかが欠けている感覚があって、ふと花火だと気づいた。
例年だと、蒸し暑い夜道を歩いていると、遠くで破裂音が聞こえてくる。目を向ければ、濃紺に塗りつぶされた空に色とりどりの花を見つけられる。離れていても腹に響く音に思う。
夏が、やってきたな。
今年は、街が静かでモノトーンだ。雨雲がいつまでも居座っているのもあるけれど、盆踊りの音色も聞こえなければ、浴衣姿も見かけない。セミだけが元気一杯に騒いでいる。
花火の音が聞きたい。
今年は軒並み花火大会が中止になってしまったので、大玉は断念せざるを得ない。けれど、手持ちならできるだろう。パチパチと小さく爆ぜる音と鼻をくすぐる火薬の匂い。
暗闇に浮かび上がる顔はちょっと不気味で、でも不思議と落ち着く。だから、普段しない話だって恥ずかしげもなくできる。蚊に刺される苦い体験も、花火の時だけは許せるのだ。
ああ、梅雨明けが待ち遠しい。花火したい。
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