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スピリチュアルな夢を見た

冠婚葬祭の場というのは、ときに、ひとの本性というものを浮き彫りにしてしまう場所なのではないかと思う。
私は、今回のえいこさんのお葬式でたくさんのネガティブオーラに触れた。
たくさんの真実を知った。
本当に泣いている場合ではないくらい、こころがざわざわした。

喪主である父には聞こえるように聞こえないように、皆、話していた。
どうやら、えいこさんは親戚中から借金をしていたようだった。
それを代弁するかのように、葬式が終わった会食で、祖父が
『お前がな、母親と思っている、あの女はな、金の無心をしてくるんだよ。
今まで、いくら出したと思ってるんだ!
死んだらな、返せって言う相手いねーじゃねえか!』
と、取り立て屋並に、喚き散らした。
頷く、親戚一同。
青ざめる、父親。
酔っ払って言いたい放題いう祖父。
お葬式の神妙な間とは違う、絶妙な気まずい空間。
やっぱり、解放はされていないことを認識させられた。


継母えいこさんが居なくなってもなお、日常は続く。
まだ6歳の妹さくらは、お母さんという存在が居なくなっても泣いたり、わがままを言ったりなどの行動はなかった。

大人になってから、当時の心境を聞いたら、
『いっつもいなかったじゃん。いつも、私の御飯作ってくれたり、遊んでくれたのはきらちゃんだったから、寂しかったけど、寂しくなかったよ』
と言ってくれた。

ちいさな妹には時々、『見える』ようで、
『洗面所にお母さんがいるんだよね』
『階段に座っているよ』
などということがあり、その都度、はっとさせられるのだが、洗面所にいるときは水回りの汚れが溜まっていたときだったり、階段のときは階段が荷物置き場になっていたりと、
『掃除をしなさい』『きれいにしなさい』
と言われているようだった。
時が経つにつれ、妹もそういうことを言わなくなったけれど。

義理姉みこちゃんは、
『大学中退する!なんのために大学に通っているのかわからなくなってきた』
と、さめざめと泣いていたが、父親が、まあ、そうはさせないよね。
今までの学費、とんでもない金額を注ぎ込んているのだから。
これからも、同様の仕送りはするから、今まで通り、大学に通いなさい、と説き伏せ、彼女はしぶしぶアパートに帰っていった。

えいこさんが居なくなって、2ヶ月くらい経った頃。
夢を見た。

私は薄暗い階段をフーディーを着て登っていた。そこは、フードを被っていないと死者に見つかり、そっちの世界に連れて行かれる、という、階段だった。ドキドキしながら見つからないように階段を登っていたが、ふと、えいこさんに会いたいと思い、フードを外した。
すると、すれ違う人から
『キラ?』
と、声をかけられ、顔を上げると、そこにはえいこさんが居た。
『よく来たね!お父さんとさくら、先に来てるんだよ。こっち!』
手を引かれ、階段を登った先にある大広間に連れて行かれた。
そこには、父親と手を繋いでいる小さなさくらと、今の年のさくらがいた。
夢と現実の間に私は居るようで、覚醒しようと試みたが、夢の世界から出ることができない。これは夢だ、こんなことがあるわけがない、そう必死に思っていた。思っていたけど、ここは本当にえいこさんの世界なのかもしれないとさえ思えてくる。
『私、アレ、もらってくるわ』
と、えいこさんは白装束を身にまといに行ってしまった。
『お父さん、ここに来たらだめなんじゃない?』
こそっと、父親に話しかけてみるが、
『お母さんの世界、さくらに見せたくて』
とだけ話し、まっすぐ前を見ていた。
白装束に着替えたえいこさんは、出発の舞を踊り、船に乗り込んでいった。
『キラ、帰り、気を付けて。絶対にフードを外したらだめよ。さくらが後ろを振り返らないように連れて帰るのよ、頼んだよ』
えいこさんを見送り、言われた通り、フードを被り、さくらの気を引きながら、後ろを振り返らずに一目散に階段を降りた。

・・・という、ところで目が覚めた。
夢というのは、諸説あるが、自分の願望を映し出す、とも言われている。
私は、泣いていたし、混乱していた。
夢、なのに、とてもリアルだった。
もし、自分の願望?やりたいこと?を映し出すとしたら、私は一体、何をすればいいのだろう。
とりあえず、この涙はなんの涙だろう。
今のは、夢?それとも私が作り出した世界なのだろうか。
葬式でも泣かなかったのに、気がつくと私は泣いていた。
泣きながら、今までの、えいこさんと過ごした日を振り返ってみた。
今の私があるのは、紛れもなく、えいこさんだ。
今の私の考えを作っていったのは、えいこさんが居たからだ。
悪いこともいいことも、悲しみも、怒りも、嬉しかったことも、どれもこれも私を構築するのに必要な因子だった。
えいこさんがいなければ、私はわたしではなかったのかもしれない。

あの夢は、私の想像する世界だったのかもしれない。
でも、それはそれで、良かったのかもしれない。
思い返すとツッコミどころがたくさんあるが、妙に現実味を帯びていた。
父にもさくらにもこの夢の話はしなかった。おそらく今後もすることはないだろうと思う。
居なくなったえいこさんからはもう、本音を聞いたりはできないけれど、私は思い込もうと思う。

えいこさんは、私の母だった、と。

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