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東海村の守り神はわら人形!? 大助人形の謎に迫る

わら人形、と聞いてみなさんはどんなイメージを持ちますか?
呪いや五寸釘など、少々物騒な内容が思い浮かぶかもしれません。
2023年8月現在、「歴史と未来の交流館」の広場には1メートルほどのわら人形が数体飾られています。

大助人形(おおすけにんぎょう)と呼ばれる彼らは、恐ろしそうな表情で棒を構えており、見る人に強烈なインパクトを残します。
これらは東海村の小学生を対象とした講座「エンジョイ・サマースクール」で作られたもの。

大助人形作りの講師として参加した東海村高齢者クラブ「亀下亀楽会」会長の宮本荘一(みやもと・そういち)さんと、講座を企画した東海村生涯学習課の林恵子(はやし・けいこ)さんにお話を伺うと、その外見とは裏腹に、村と子どもたちを見守るおとなたちの想いが込められたわら人形でした。

優しい笑顔が印象的な左:宮本さん、 豊富な知識とユーモアが光る右:林さん

東海村と大助人形

大助人形の起源はどこにあるのでしょうか。
茨城県鹿嶋市にある鹿島神宮の神さま由来のもの、など諸説あるそうですが、詳しいことは分かっていないようです。
紙に描かれた顔は険しく、刀と脇差に見立てた2本の棒を携えた姿は武士のよう。「疫病退散」「無病息災」を願って庭先に立て、家に病魔が入り込まないようにしていたそうです。

大助人形。刀の束部分は、夏に旬を迎えるナスを使うのがポイント。

70代後半の宮本さんが小学生の頃は、東海村の各家庭で大助人形が作られていました。少なくとも、それ以前の時代には大助人形が存在していたのではないか、とのことです。

人形作りに最適なわらは稲ではなく小麦。夏、小麦の収穫が終わるとわらをかき集め、人形作りを始めます。できあがった大助人形の脇部分にはなんと小麦で作ったおまんじゅうが2つ入っていたんだとか。
「自分の家やご近所の人形からおまんじゅうをもらうのが、何よりの楽しみでした」
と、宮本さんは目を細めていました。

そんな大助人形ですが、宮本さんが親世代になる頃には小麦畑の減少などで姿を消してしまいます。東海村の一部地域では作られ続けていたそうですが、以前とくらべてひっそりとしたものだったそうです。

時代とともに忘れ去られてしまった大助人形。しかしここで伝統のつなぎ手が現れます。
宮本さんの孫世代となる林さんです。
「高校生の時に『東海村の民俗』という本を読んでいて、その中に大助人形が出てくるんです。東海村ではもうすたれた行事だと思っていたのですが、村役場就職後に常陸太田市で作っているという話を聞いて現地まで見学に行きました」

東海村でもこの伝統行事を復活させたい、村の子どもたちに伝えたいと思っていた林さん。2007年に行われた「ねんりんピック(高齢者を中心とするスポーツ、文化、健康と福祉の総合的な祭典)茨城」の東海村高齢者クラブブースに大助人形が出展されていたことを教えてもらい、高齢者クラブに「今作れる人はいないか」相談したところ、手を挙げてくれたのが宮本さんの所属する亀下亀楽会のみなさんでした。
エンジョイ・サマースクールで大助人形作りを始めてもう6年。今では亀下亀楽会のみなさんも毎年楽しみにしている恒例行事となっています。

急きょインタビューに同席してくださった高齢者クラブ連合会会長の佐藤弘子(さとう・ひろこ)さんは
「東海村の伝統行事はいろいろあるけれど、子どもたちと一緒に作るのは大助人形作りが一番。大助人形作りは高齢者クラブの生きがいづくりにもなっています」と笑顔で答えてくれます。
生きがいづくりにもなるというその様子を、見学させてもらうことになりました。

お話上手の宮本さんと佐藤さん。おふたりの東海村トークに花が咲きました。

「楽しかった!」大助人形作り

2023年8月4日、白方コミュニティセンター多目的ホールには小学生の受講生14名、亀下亀楽会から作り手16名が集まりました。
司会進行は林さん。お手本の人形を指しながら子どもたちに訊ねます。
「表情を見てください、怖そうな感じがしますね。
人形に棒みたいなものが刺さっていますね。これはなんでしょう?
これは刀なんです。怖い顔をして刀を持っている人はどういう人なんでしょう?」
互いに顔を見合わせる子どもたち。
林さんの問いに導かれ、子どもたちは想像力を働かせながら人形作りに引き込まれていきます。

司会をしつつ、各テーブルをめぐる林さん。

作り手のみなさんは、マンツーマンで作り方を教えていきます。最初は遠慮がちだった子どもたちの手も、作業を進めるごとに大胆に。
作り手のみなさんもどんどん調子が出てきて、思わず見本の人形の工程より先に進んでしまうなどほほえましい場面もありました。

参加した子どもたちに感想を聞くと、「楽しかった!」と人形作りを満喫したよう。来年度も参加したいと希望する子もいて、伝統文化は少しずつ継承されていると感じました。

三兄弟で参加したご家族。人形の顔は「鬼滅の刃」の鬼をイメージして描いたのだとか。

異世代交流が生み出すもの

大助人形を作るために、軽トラックの荷台がいっぱいになるほどのわらを運んでくださった亀下亀楽会のみなさん。それだけではなく、会場の整備や、事前に人形作りの練習会を開くなど、熱心に下準備をしてくださいました。

宮本さんにその原動力を伺うと
「いかに地域を盛り上げるか、というのが私たちの課題なんです。今は人の入れ替わりがあって、隣に誰が住んでいるか分からない状態。そんな中で異なる世代が交流して、一度途絶えかけた東海村の伝統をふたたび伝えていくのは、とても意味があることだと思っています。何より『もうすぐ大助人形作りだね』と、張り切れるんです。子どもたちに頼られるのがうれしいんですよ」
と、顔をほころばせました。

宮本さんをはじめ、亀下亀楽会のみなさんは子どもたちとの交流を心から楽しんでいました。

「大助人形作りは生きがいづくり」という、佐藤さんの言葉がよみがえります。

核家族化が進む現代。子どもたちにとってもおじいさん・おばあさん世代と交流し伝統文化を継承することは、貴重な機会となるのではないでしょうか。

林さんは次世代の子どもたちに向けて
「東海村では無病息災や疫病退散を願って毎年大助人形を作っていた、という素朴な祈りがあったことを知ってほしいです。また、本来なら捨てるはずだった小麦のわらを利用して作るというSDGsの考え方にも注目してほしいですね」
と、期待しているようです。

かつてより病を払うために作られていた大助人形。今は異世代間の絆を繋ぐという新たな役割を得て、東海村を見守っています。

取材先データ
歴史と未来の交流館

住所:茨城県那珂郡東海村村松768番地38
開館時間:午前9時から午後7時(火曜日から金曜日)
午前9時から午後5時(土曜日・日曜日・祝日)
休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合はその翌平日)
祝日の翌平日・年末年始(12月29日から1月3日)
駐車場:交流館向かい、文化センター側
問い合わせ先:029-287-0851
URL:https://www.vill.tokai.ibaraki.jp/soshikikarasagasu/kyoikuiinkai/shogaigakushuka/kouryuukan/kouryuukannituite/7857.html
※2023年度作成の大助人形は、2023年8月31日まで広場に展示予定


▼取材・執筆担当者

花島 絵美/インタビュー・執筆・写真
生まれも育ちも愛媛県。就職を機に上京し、「推しごと」に関わるお仕事に従事する。いろいろあって東海村に引っ越しし、茨城県の食と景色と主婦暮らしを満喫中。古墳もあれば世界最先端科学施設もある東海村の魅力にはまり「T-project/東海村スマホクリエイターズLab.」に参加。「最推し」である東海村をたくさんの人に知ってもらうため活動しています。

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