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電車内で煙草を吸う、自称・刑務所あがりの男

私が高校生だった20年ほど前の話です。

毎朝満員電車に乗って通学していました。

ある朝電車に乗ると、ドア付近の一角が空いていました。
ドッと乗り込む人の流れを縫ってその一角に滑り込むと、やせ型で坊主頭の中背中年男性がドア脇に立ち、煙草を吸っている姿が見えました。

「電車内で喫煙する人を初めて見た。」

彼がいたために空いていたその一角を、私も避けるべきだったのでしょうが、初めて車内で喫煙する人を見た衝撃で、咄嗟に避ける選択を忘れてしまいました。


その電車は急行で、次の駅に着くまで10分以上かかります。
車内の窓は開かず、当然ドアも開きません。

人が密集する中で煙草を吸うこの男性は、「普通ではない」と悟りました。

当時は電子タバコがありませんでしたので、市販の紙煙草が主流で、独特な臭いを発していました。

「臭い。」

男性以外の誰しもが、車内が禁煙であることを知っています。しかし誰も注意をしませんでした。



男性のすぐそばには、スーツを着た30歳くらいの男女が立っていましたが、問題の男性から顔をそむけていました。
私は怖いもの見たさから、顔を背けた男女の肩越しに、問題の男性と向き合うように立ちました。



問題の男性は高いテンションで、「俺は刑務所から出てきたばかりなんだ。」と言いました。電車が通過駅を通るたびに、「あっ、このホームにエスカレーターができてる。」「この駅の階段はもっと北側になかったっけ?」と、とても独り言とは思えない大きさで話し、時々近くに立っていた男女に問いかけていました。

男女は、まるで聴こえていないかのように反応をせず、視線を逸らしています。


男女と問題の男性はたまたま車内で近くに立っただけで、明らかに他人でした。「関わりたくない」と男女が全身で語っていました。



煙草の灰は車内の床に落ちていき、短くなった煙草は床に落とされ、踏んで火が消されました。

「やっと煙草の煙から解放される。」と安心した横で、男性は新たに煙草を取り出し火をつけました。


通過駅でエスカレーターが設置されたのは数年前でした。しかし階段が北側にあったかは知りません。もしそうだったとすると、10年以上前のことでしょう。

「この人はどれくらいの期間刑務所に入っていたのだろうか。そのころ、電車内は禁煙ではなかったのか?」と考えました。

問題の男性が何度話しかけても側に立つ男女が答えないため、男性は目を泳がせました。

「あ、まずい。」

と思ったときには私としっかり目があってしまいます。

「ねぇ、エスカレーターなかったよね?」

「エスカレーターはできたばかりです。でも階段のことはわかりません。」

「ははっ。そうなんだ。」

男性は嬉しそうに笑いました。

「俺、務所暮らしが長かったからさ。出てきたら色んなものが変わってて……。」

彼はまだ吸いきらないタバコを床に捨て、踏んで火を消しました。床には黒ずんだ跡と、二本の吸い殻が残っています。

「変わるんだよな……。」

男性は薄い水色がかった作業着らしきものを着ていました。高校生の私は、「早朝に刑務所を出たばかりで、これからどこかに向かうところなのかしら。」と思いましたが、今思えば酷く身軽な格好でしたので、すでにどこかに身を寄せていて作業着を着て働きに出るところだったように思います。

ホームを見るたびに興奮していたのを考えると、通勤初日だったのでしょうか。落ち着かない心を煙草で紛らしていましたが、私という他人が男性に応えたことで煙草より会話がしたいと前のめりになっているように感じました。

その後は男性が一方的に話し続けました。

時々男性と私の間にいる男女にも、会話を振っていました。
私は緊張していましたので内容を覚えていませんが、私が応えたあとは、男女も短い返事をするようになっていました。

大型の乗換駅に着く前に男性は降りていき、車内に安堵の空気が流れました。

男性がなんの罪で服役していたのかわかりません。長い期間ならば殺人だろうか、と子どもだった私は思いました。窃盗を繰り返したり、薬物であった可能性もあったでしょう。再犯率が非常に高い罪です。

時が流れて大人になり、育った環境と犯罪率や、再犯の防止には周囲が受け入れる姿勢が必要であることを知りました。

男性は車内の喫煙も自制できず、働けたのでしょうか。刑務所に戻ることなく生活できているのでしょうか。

私が返した言葉に、嬉しそうにしていた姿が記憶に残っています。

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