ノベライズ「イキなりご主人様宣言一話」その2

ナンバーワンとは、私にとってキラーワードなのです。
毎日会社でその言葉を聞いていますから。

鬼の部長から。

鬼の部長こと最上雅文さんは、私の直属の上司です。

「5年もこの会社にいて、なんでこんなミスするんだ! ったく……お前はダメOLナンバーワンだな!」

「人気ナンバーワン」。
「ダメOLナンバーワン」。

言葉って難しいですね。
同じ言葉でも、使い方次第で嬉しかったりがっかりだったり……。

あ、なんだか悪寒がしてきました。

(いけない。縁起でもない顔を思い出しちゃった。切り替えなきゃ)

私は片手をあげておじさんたちに宣言しました。

「私、頑張ります! 皆さんのご期待に応えます!」

ナンバーワンの称号を、本物にしてみせる。
心の中で自分に気合を入れます。

「いいね〜。じゃあ、いってみようか!」

サングラスのおじさんがドアを開け、顔に傷のあるおじさんが私の背中を押しました。

「こんにちは。春香で〜す」

私はピースサインで、お客様の待つブースへと飛び込んで行きました。

ブースは狭く、テーブルとソファーがあって、まるでカラオケボックスみたいでした。
暗かったので、顔はよくわからなかったのですが、お客様はどうやらサラリーマンみたいです。スーツ姿で、すらっとした感じの人でした。

その人は上目遣いに私を睨むと、くぐもった声で言いました。

「……楽しそうだな。ダメOL」

ちょっと待って。この声、聞いたことがあります。
ダメOLってフレーズも、耳にタコっていうか。

ものすごく……いや〜な予感。

私はお客様をじーっと見ました。
切れ長の鋭い目。
整った顔。

「え?」

私は笑顔で硬直しました。

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