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耳そうじがきっかけで変態気質になった話

幼き頃、母親に耳掃除をしてもらうのが好きで、
耳かきを一方的に渡し、耳掃除を毎日のようにお願いしていた。
母親の膝枕で優雅に耳掃除をしてもらうひと時は
たまらなく幸せだった。

無論、耳掃除そのものは快楽だったのだが、
もう一つ快楽を味わっていたことがあった。

それは「大きな耳垢を取って観察する」ことである。

私は耳垢が取れるたびに、どの程度のものか見せてもらい、

「今日はこれだけしかないのか」

と思う時もあれば、

「今日はすごいのがとれたぞ」

と自分の耳垢の取れ高に、一喜一憂していた。

私の耳垢の性質はパサパサ乾燥タイプ。
毎日のように耳掃除をしてもらっていたため、
大きい耳垢が毎回とれるわけではなかった。

なので、久しぶりの耳掃除で大きい耳垢を収穫できた時にはとても興奮していた。
その興奮が忘れられず、大きい耳垢を見たいがために、
毎日のようにしてもらっていた耳掃除を、
わざと日にちをあけて、してもらうこともあった。

自分の耳垢では興奮できる頻度があまりにも少なすぎる。
それからというもの、もっと大きい耳垢がみたいと
願望がふくらんでいった。
それから、自分以外の人間の耳垢に興味を持つようになり、まず目を付けたのが母親だった。

実際に耳の中をみせてもらうと、耳垢は少なく、
興味をそそられる対象はなかった。
私の耳かきのスキルもなかったため、
私が施術すると、痛みを生じさせてしまい、
積極的に耳掃除をさせてくれなかった。

次に目を付けたのが、父親だ。
母親とはうって変わって、
耳の中が、毛で埋め尽くされていた。
自分が求めている耳垢もなく、ただただ毛があるだけの耳だった。
自分の娘に耳掃除をしてもらうのが嬉しかったのだろう。
父親の方から「耳掃除して」と依頼されることが何度かあったが、ただ毛があるだけの耳に興味がなかったので、いつも断っていた。

そして次に目を付けたのが弟だ。

私が求めていたオアシスが、こんなにもそばにあったなんて。

想像を超えた耳垢が存在していた。
見たこともない光景に、興奮と驚きを隠せなかった。
耳の内壁には、おどろくほどの耳垢がしっかりとへばりついている。
私と同じカサカサ乾燥タイプの耳垢だ。
アドレナリンが大量に放出され、ハイな状態になっていた。
耳垢ごときでこんなにも胸が熱くなるなんて、
夢にも思っていなかった。

部屋の電気の明るさだけでは、耳の中がはっきりと見えない。
私の耳掃除のときに、母親がペンライトを使っていたことを思い出した。
私はペンライトを口にくわえ、弟の耳の中を明るく照らした。
そして、片手でしっかりと耳たぶをひっぱり、耳の穴を最大に広げ、もう片方の手でピンセットを把持する。
これで準備万端だ。
いざ弟の耳の中へ、ピンセットをいれる時がやってきた。
未知の体験でわくわくが止まらなかった。

しかしながら、これまでの実績も施術経験もなかったため、自分の勘を信じて実行するしかなかった。

しょっぱなから、耳の内壁にへばりついた耳垢にターゲットをさだめ、ピンセットでつかんでひっぱりあげてみた。

すると、ピンセットで接触している部分の貧弱な耳垢しか取れず、大きなかたまりをしとめることはできなかった。

そう簡単にとれるわけではないことを悟り、
耳かきも併用して使ってみた。
耳の内壁にへばりついている耳垢を
やさしく、そぐように、押してはがしていく。

試行錯誤し、ようやく怪物並みの耳垢をとれる瞬間がやってきた。
呼吸することも忘れ、一心不乱に弟の耳垢に向き合った。
こんなに真面目に何かに向き合って生きてきたことはなかった。

そしてついに、
耳の内壁にへばりついた大きな耳垢をしとめることができたのだ。
ゆっくりと持ち上げ、耳垢は確かに外界へ顔を出した。
ティッシュの上にそっと置いてみる。

そこでようやく呼吸することを思い出し、大きく一呼吸ついた。
怪物並みの耳垢の存在感に圧倒されていた。

初めてしとめた耳垢を、すぐに手放すわけがない。
いろんな角度から眺めたり、手で触ってみたりもした。
その時間は快楽の、なにものでもなかった。

この快楽を知ってしまった以上、もっと耳垢をとりたいと
欲がふくらんでいった。
その後も定期的に弟の耳の中をみせてもらい、
そのたびに快楽を味わっていったのだ。
健全な快楽を。

そして、今もなお、その変態気質は立派に残存している。
今ではYouTubeに、それ専用の動画がたくさん投稿されている。
耳垢をとっている動画ごときで、何百万回と再生されているのだ。
私のような人種にとってはありがたい話である。
いつもどんなときでも、あの快楽を楽しめるのだから。

さらに変態気質に拍車がかかり、
ほかの類のものも、興味を示すようになっていった。
鼻の角栓をとるだけの動画、
背中にできた粉瘤をとるだけの動画、
カメにまとわりついているフジツボをとるだけの動画、
歯の歯石をとるだけの動画といったものだ。

どれもすべて永遠に見ていられる、しろものばかりだ。
なんてすばらしい時代なんだろう。
きっと、耳垢ごときで興奮している人種なら、理解していただけるはずだ。

つとめていた職場にも、私と同じ人種の人がいた。
その人はそれらの動画を見ながら、酒がすすむらしい。
酒の肴として見ていることに、共感はできないが、
私たちの人種が「10人に1人はいる」という信憑性が低いデータがとれた。

この特殊な気質を生かせる仕事はないか、検索したこともある。
それらの仕事はもちろん、専門分野の資格が必要なため、断念はしたが。
語れば語るほど、変態度が増していくので、
今回はこのくらいにしておきたい。


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