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学校の席がえでいかさまをした話~懺悔したいことその1~

小学生の頃、月1回開催される、席がえを楽しみにしていた。
くじ引きで決める方法以外にも、いくつか方法があり、
その中でも「座りたい席を、自分で決める」という方法があった。

この方法は男女別々に行われていた。
まず男子が教室に残り、席を決めていく。
その間、女子は廊下で待機。

男子の席が決まると、次は女子が教室へ入り、
男子は廊下で待機する。

教室内で行われていたことは、
まず、先生の「よーい、はい!」の合図で、
各々が一斉に座りたい席へ移動する。

もし、座りたい席に希望者が集中すると、
交渉するか、じゃんけんで決めなければらない。
座りたい席に誰もいなければ、その席で決定となるのだ。

私は席がえの度に、好きな男の子の隣に座りたい、と思っていた。
くじで席を決める方法だと、運にかかっている。
しかし、今回の方法は違う。
なんとかして、好きな子の近くに座れないか、頭をフル回転させていた。

ひらめいた。

男子と女子が入れ替わるタイミングで、男子の誰かに
「私の好きな子が、どこに座っていたかを聞き出す」
という作戦だ。

この作戦なら、好きな子の近くに座ることができるかもしれない。

私はすっかり、私利私欲に目がくらんでいた。

問題は、誰に聞きだすか、であった。
人選は慎重に行う必要がある。
おとなしそうで、口がかたそうな子・・・
田中君だ。
田中君なら、引き受けてくれそうだ。
そう信じて、田中君に相談することにした。

田中君に私の愚行な作戦を伝えた。
少しとまどった様子はありながらも、
田中君は私の作戦を受け入れてくれた。

待ちに待った、席がえ当日。

私は、この作戦が成功することを、ただただ祈った。
男子が席を決めている。
廊下で待機している間、心臓の鼓動が早くなっていた。

そして、男子が教室からぞろぞろと出てきた。
私は真っ先に田中君のもとへ駆け寄った。
こっそりと、誰にも気づかれないように、
私の好きな子が、どの席だったかを聞いた。

田中君は真剣なまなざしで、

「あそこ」

と教えてくれた。

私はすかさず、

「あそこね、間違いないね」

と強く確認を促した。

「うん、あそこだよ」

私と田中君が指さしている席は、合致していた。

場所的には人気の席でもなさそうだった。
勝利がすぐそこに見えていた。

先生の「よーい、はい!」の合図で、その席へ真っ先に向かった。
勝利を確信した矢先、
もう一人そこの席に、座ろうとする子が現れたのだ。

唖然とした。

でもあきらめるのは、まだ早い。

しっかり交渉すれば、席をかえてくれる可能性もあるからだ。
しかし、その子も「この席がいい!」と言い張り、一歩も譲らなかった。
結局、じゃんけんをするはめになった。

せっかくの作戦がここで失敗におわっては、無念すぎる。
なんとしてでも、じゃんけんに勝つ他はなかった。

「じゃんけんぽんっ!」

私は勝った。
勝利をおさめたのだ。
喜びで満ち溢れていた。

私の念願が叶ったのだ。
その後の学校生活といったら、パラダイスそのものだった。
たった1か月間だけだったが。

月日がたち、大人になって田中くんをSNSで見かけた。
ふと、あの一件を思い出した。

当時、私利私欲で目がくらんでいた私は、罪の意識が薄れてしまっていた。
今さらになって、あの時の愚かな自分の行いが、
罪の意識として、湧きおこってきたのである。
あの頃の自分が心底情けなくなった。

自分の欲を満たすために、田中君のやさしい心を利用していたのだ。
田中君はあの時、どんな気持ちで私に席を教えてくれたのだろう。
考えたことがなかった。

今まで、田中君の気持ちを考えずに、
私はこれまで、のうのうと生きてきました。
席がえの時、いかさましたことを、ここで懺悔します。

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