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初めて自分の耳の中を見た日

大人になった今でも、とてつもなく大きな耳垢に
興奮してしまう。

それは幼き頃から変わっていない。

耳垢をとっているYouTube動画は永遠に見ていられる。

すばらしい時代だ。

それがただで鑑賞できるのだから。

幼き頃、弟の耳垢には何度も興奮させられた。

耳の中を自分の目で見て掃除できるのは、
弟の耳しかなかった。

『自分の耳が取れたらいいのにな』

何度思ったことか。

テレビで、耳の中に小型カメラを挿入している
場面を見たことがある。

そんな機会は自分なんかに訪れることはないだろう、
耳の病気にならない限り、自分の耳の中を
カメラに映し出す機会はないだろう。

そうあきらめていた。

月日は経ち、大人になった今、
『耳掃除専門のサロン』の存在を知る。

耳の中が映し出された映像を見ながら、
耳掃除の施術を受けられるというすばらしいサービス
だった。

『自分の耳の中が、自分の目で見れる!』

あの頃、かすかに抱いていた夢が再び思い出された。

『いつか必ず、耳掃除専門のサロンに行くんだ!』

そう決心し過ごしていると、
左耳に違和感を感じた時があった。

頭を動かすと、左耳がゴロゴロと音がする。

なにか小さいものがコロコロ動いている感覚がした。

耳垢が動いているのだろうか。

数日たっても、やはりその症状は治まらなかった。

こんなタイミングで、耳掃除専門のサロンに
行くことになろうとは。

『きっと耳垢が原因だろう』

そう判断し、早速サロンを検索し、予約してみる。

いくつかメニューがあった。

耳掃除を受けるだけのものあれば、
モニター画面に映し出された耳の中を見ながら、
施術を受けられるというものもある。

迷うことなく、私は後者のメニューを選んだ。

そして当日。

左耳がゴロゴロする違和感は治まっていなかった。

そんな症状とはうらはらに、
初めてのサロンに、わくわくが止まらない。

サロンはおしゃれな住宅街のマンションの一室にあった。

ピンポンを押すと優しいお姉さんが出迎えてくれた。

症状を説明し、早速、耳の中を見てもらう。

ついに私の耳の中にカメラが入る瞬間がやってきたのだ。

湧き上がる興奮を必死で抑える。

そしてテレビ画面に映し出された、私の耳の中。

最初に目に飛び込んできたのは、耳毛だった。

耳毛に小さな耳垢がまとわりついている。

父親の遺伝のせいで、耳の中までも毛であふれている
という状態に、落胆している暇はなかった。

普段からこまめに耳掃除をしていたからか、
大きな耳垢は見当たらない。

そして、カメラはゆっくりと奥の方へ進んでいく。

鼓膜の付近までたどり着いた。

ぽつんとある耳垢が、鼓膜の上に映し出されている。

ゴロゴロした違和感は、これが原因だとお姉さんが
教えてくれた。

鼓膜付近なので、かなり奥の方へ耳かきを
突っ込まなければならなかった。

お姉さんを信頼して、その耳垢が捕獲できるのを
願うしかない。

あんな奥に器具を入れられたことはなかったので、
痛みが出現した。

この耳垢が取れれば、平和な日常に戻れる。

私はお姉さんに圧倒的信頼を示し続けた。

その甲斐あって、ついにターゲットである耳垢が
捕獲された。

テレビ画面に映し出された獲物は大きく見えたが、
外界に出たそれは、実際のところ、
とても小さいものであった。

首をふってもゴロゴロしない。

私はまた平和な日常を取り戻すことができた。

今度はリラックスした状態で耳掃除してもらいたい。

耳毛カットもしてもらいたいな、とも思った。

耳の違和感が解消した安心感と、
はじめて自分の耳の中を見た感動と、
耳の中も毛が多いという気づきを得た日だった。


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