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振られたことをなかったことにした話~懺悔したいことその2~

高校2年生の時、私は1つ上の野球部の先輩に恋をした。
話したこともなく、特段イケメンでもなかったが、
素朴な外見が魅力的だった。

私はバスケ部だった。
野球部が体育館の2階で練習をしているとき、
気づけば先輩を目で追っていた。
日に日に頭の中は、先輩のことでいっぱいになっていた。

高校生にもなると、

「○○ちゃん、彼氏いるんだってー」

とか、

「彼氏できたー」

とか、彼氏自慢を耳にするようになった。

私は彼氏ができたことがなかったため、その子らに嫉妬していた。

「私も制服デートがしたい!」

「毎日メールのやりとりがしたい!」

学生のうちに、彼氏という存在がほしかった。

「昨日、彼氏がさー」

なんて、友達に言ってみたりもしたかった。

「彼氏歴なし」という、劣等感と焦りを抱えつつ、
毎日バスケットにあけくれていた。
私の見た目は、スーパー刈り上げで、ゴリラのようだった。
ザ、スポーツ女子といった風貌で、
「彼氏いるんです、私」
という見た目とは、程遠かった。


先輩が好きな気持ちがどんどん高まり、
なんとか接点をもてないだろうかと考えていた。
そこで、同級生の野球部の子に相談してみることにした。

ありがたいことに、先輩と仲介役になってもらい、
私は先輩のメールアドレスを手に入れたのだ。

好きな人とメール交換ができるなんて・・・。
毎日、先輩とメール交換をするのは幸せだった。

先輩とは、なんてことのないメールのやりとりを繰り返していた。
そんな当たり障りのないメールをやり続けている中、
そろそろ本当の気持ちを伝えたいな、という心構えになっていた。

そしてついに、メールで告白する決心がついたのだ。

『好きです、付き合ってください』

と文章を打ち終えた。
あとは、送信ボタンを押すだけだ。

どのくらい時間がたっていたのだろう。
送信ボタンを押す手前で、体が止まっていた。

さまざまな葛藤を乗り越え、気がついたら送信ボタンを押していた。
私の初めての告白が、電波にのって、飛んでいってしまった。

返信がくるまで、いてもたってもいられなかった。
枕に顔をうずめ、息ができなくなるまで、息をとめていた。
携帯をパカパカと開いたり閉じたりして、
何もない、待ち受け画面を無駄に眺めていたり。

着信音がなった。

心臓の鼓動がすさまじい勢いで鳴っていた。

どうか、いい返事でありますように!

そう強く願い、メールをひらいた。

『ありがとう。でも今はそういう感じでは・・・』

と、やさしい文章でつづられた、断りの内容だった。

人生初の告白が、無惨にも失敗で終わってしまった。
ショックをかくせなかった。

その夜、

「ゴリラの分際で、告白したんだって?」

「身の丈にあった人にしなきゃだめだよ」

「先輩に振られたんだってねー」

といった、様々なネガティブな妄想が、脳内を支配していた。

振られたことを一生背負って生きていくのか、と
思いを巡らせていた。

このままずっと、彼氏ができないのではないだろうか。
すっかり自信も失っていた。

どうにかして、今日のことはなかったことにしたい。

恐ろしいことに、私はまた、愚行に走ろうとしていた。

「振られたことをなかったことにする」という最終判断だった。

翌日、先輩に再びメールを送った。

『昨日は酔っぱらっていて・・・記憶にないんです。

 思ってもいなかったことを送信したみたいで。

 すみませんでした、忘れてください。』

あろうことか、酒のせいにして、しかも、
好きという気持ちは、さらさらなかったんです、
といった意味を込めた内容だった。

そのそも、酒は飲んでいなかった。
記憶にない状態でメールを送れるはずもない。

強引にでも、

「好きという感情はないんです」

ということを強調したかった。

先輩から返信がきた。

『そうなんだ (汗をかいて苦笑いをしている顔文字) 』

嘘に気づかれているかどうかなんて、もはやどうでもよかった。

とにかく、なかったことにしたかっただけなのだから。

なぜ、素直に振られたことを認められなかったのだろう。
あの時、メールではなく、面と向かって告白するべきだった。

もし、あの頃に戻れるのなら、堂々とこう叫びたい。

「先輩のことが好きです!付き合ってください!」

「初めて好きな人に告白して、振られたぞー!」

というように。

あの時、ストレートに感情を伝えられていたら、
振られたあとのつらい経験を乗り越えられていたら、
私の人生、どうなっていただろうか。

私は他人の目を何よりも気にしていました。
傷つくのを深く恐れ、過剰なまでに自分を防御していました。
あの時、見え見えの嘘でメールを送ったこと、ここで懺悔します。


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