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ダリはなぜ”狂った”のか?

溶けた時計
蟻が噴き出した卵
脚の異様に長い象のような生物

「いったい何なんだこの絵は?」
と思わせることにおいて、画家サルバドール・ダリの右に出る者はない。

Wi-Fiでも受信しそうなヒゲ
セックス恐怖症且つオナニー依存症
性欲とドラッグに塗れた宴の主催者

「いったい何なんだコイツは?」
と思わせることにおいて、変人サルバドール・ダリの右に出る者はない。


ダリほど、セルフプロデュースに長け、そこに心血を注いだ芸術家はいないでしょう。
「サルバドール・ダリ」という存在をブランド化し、世界中に知らしめるためにダリの生涯は注がれました。

そのために、全てをかけてダリは”狂った”のです。


何かと多様で変人なアーティストを生み出す国スペインに生を受け
1904~1989年の時代を生きたダリ。

幼少から絵画などの芸術に親しみ、折しも勃興したシュルレアリスムのアートムーヴメントに傾倒する中で本格的に頭角を現します。

「意味不明なのが芸術でしょうが」

という一般人からしたら意味不明な理論のシュルレアリスム(これの理論基盤になった人物、ロートレアモン伯爵という人が全然伯爵でなく庶民だったという意味不明ぶり)はダリの追い求める表現にバチクソにハマり

溶けた時計(因みに、チーズ見てから時計みたら閃いただけ)、グレートマスタベーター、体中が引き出しだらけの彫刻、バカみたいにデカい卵(から溢れ出る蟻)

など、意味不明でありながら不思議と記憶にこびり付くモチーフに溢れた絵画を次々に発表します。

スラムダンクの桜木も引くほど、自身を天才だと主張し続けたダリですが
その圧倒的な画力から放たれる奇天烈な絵画の数々は天才と呼ぶに相応しく
現代においても画家のみならず多様なクリエイターから料理人まで世界中を魅了しています。

金銭的な価値もまたしかりであり、記憶に新しいところでは、2020年ニューヨークのオークションにて
16×22㎝ほどの絵画にも関わらず$9,100,000(当時約1,001,00,000円)というこれまた一般人には意味不明な市場価値を見せつけてきます。

自他ともに認める天才ダリ。
しかしながら、ダリは「天才画家ダリ」という型にハメられることを嫌い

・コンペの授賞式に何故かホンマもんの潜水服を着て登場する(酸素ボンベの誤作動で死にかける)
・版画作成の際に、インクを詰めた火縄銃を版にぶっ放すなど工房で暴れる
・一発で映倫にひっかかるレベルの薬とエロまみれの激ヤバパーティを開きまくる
・世界中の公認贋作者(ダリ「顔もみたことないけど」)協力のもと大量のニセモノを市場に投下(ダリ「サインは自分でしたよ」)

など奇行と暴挙を繰り返すことで、絵筆がなくても存在を世間に知らしめますが
逆にその行動が本筋の美術業界からは煙たがられるようになっていきます。

そこまでしてダリがなりたかったもの。

それは「世界で唯一無二のサルバドール・ダリ」

ダリがあえて狂い、世間に自分を訴えた原因の一つは
もう一人のサルバドール・ダリにあったと言われます。


ある時、幼いダリは写真を見つけます。
そこには大好きな両親と共に、見慣れない少年が映っていました。

いったいこの子は誰なんだろう?
無邪気に尋ねるダリを両親はお墓に連れて行きます。

その墓碑に刻まれていた名はサルバドール・ダリ。

自分の名前が記された墓前で両親は語り出します。

ダリが生まれる前、同名のサルバドールという兄にあたる子がいたこと。
その子が夭折し、消沈する中で愛すべき我が子が”生まれ変わり”、再び自分たちのもとに帰って来てくれたことを。

このことが、幼いダリにとって超ド級のトラウマになります。

―― 今まで受けた両親からの愛情は私のためではなかったのか?
サルバドール・ダリとは、私ではなかったのか?
では 私とは、いったい誰なのか?

ふざけるな… 私こそがサルバドール・ダリだ ――

やがて、ダリは己の存在を証明するように絵筆を取り、奇行に走ります。
巨匠を上回る名作を、誰も見たことがない美術品を、一度見たら忘れられない衝撃を生み出すため。


サルバドール・ダリと言えば他の誰でもなく、あの珍妙なヒゲの芸術家を思い浮かべる現代。
悲しくも、野望に満ちたダリの理想は達成されていると言えるでしょう。

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