『さあ、気ちがいになりなさい』-要約/感想

「狂気」と「正気」が交わる表題作『さあ、気ちがいになりなさい』を始め、不時着により迷子となった男が我々に「理想」を問う『みどりの星』、ノックから始まりノックで終わる『ノック』。星新一訳によるショートショートの名手フレドリック・ブラウンの傑作短編集。

今回の記事では、私が特に気に入った短編の要約と一言感想を書きます。

『みどりの星』
 5年も不時着した星で放浪している男、マックガリーは乗ってきた飛行船を直すために同じ星に不時着したとされる飛行船を探していた。森、動物、平原その全てが赤褐色で満たされた星にて彼は、右肩にいる5本足のドロシーにみどりの星「地球」の素晴らしさを講じ続ける。森を抜け、上空を見上げるとそこには飛行船が。助けを求めた飛行船から出てきたのは宇宙パトロールのアーチャー中尉であった。彼はマックガリーにマックガリーが放浪に割いた年月が5年ではなく30年であること、飛行船が堕ちたのは違う星だということ、地球はもう住める環境ではないこと、マックガリーの右肩には何も無いことを告げる。真実を叩きつけられたマックガリーはアーチャーを射殺、飛行船を破壊し、またドロシーと共に星での放浪の旅を続ける。右肩にない5本足のドロシーに美しいみどりの星の魅力を語りかけながら。

 夢が欲しかったわけではなく、夢を追っている自分が欲しかったマックガリー。人は理想そのものではなく、理想を追う自分を求めているのかも知れないと、不図、思う作品であった。


『さあ、気ちがいになりなさい』
 3年前の事故で事故以前の記憶を失ったジョージに上司よりある依頼が持ち出される。依頼の詳細は一切与えられず、ただ、とある精神病院を取材するために患者となってくれとだけ言われた。依頼を受けたジョージは精神病患者を演じることになるわけだが、ジョージは事故によって自身がナポレオン・ボナパルトとなったため芝居をうつのにそう苦労はしなかった。精神病院に入ると居る人はみな、可笑しな奴ばかり、気ちがいばかりであった。では、ジョージ自身はどうであるか。次第に彼は自分の正気を疑い始める。精神病院から退院するには彼がナポレオンではなくジョージだと査問委員会で自白剤を打たれた上で証明しなければならない。自分は嵌められたのではないか。そう思う彼であったが、辺りが黒く染まった晩、何者かの手を借り、脱出を成功させ、世界の真実を、自身が何故ナポレオンとなったのかを知る。「さあ、気ちがいになりなさい」。世界の真実はあまりにも突飛で彼は気ちがいとなったのであった。

 正気と狂気が同時に存在する新たな読書体験ができた。村田沙耶香の『コンビニ人間』がたんたんと語られた狂気(正しくはそうではないが...)だったのに対し、本作は徐々に歯車が狂っていく様子が伺えた。この感覚、ハマってしまいそう。


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