見出し画像

社員を切る側も辛いんや

 先日収録を行いました私のサロン『漆黒と灯火』は、火鍋チャンネルでもご一緒している青山浩さんをお呼びして、相場と人生についてお話をお伺いしました。無観客試合だったのは残念でしたし、いつもはこの3分の一の距離で濃厚接触しながら業界話をしてるはずの青山さんと遠く離れて鍋もなく語ってるというのは逆にシュールでしたね。

 会の宣伝をしておきながら、このコロナ禍でも退会者がほとんどいらっしゃらず、実は会員募集してなかったりするんですが…。

 で、青山さんとは相場の話をしつつも「突然やってきた、ブラックスワン。それに対応する事業者として、どうブレーキを踏むのか」という議論をしました。もちろん、事業を守る経営者として誠実にブレーキを踏む、これが大事。と、言えば簡単そうに聞こえるわけなんですけど、実際には「テナントとして減額交渉(減賃交渉)をし、社員を解雇する」ことが求められます。固定費を下げ、事業を守る。困難な時代の経営者かくあるべき、とかっこつけている場合ではない。事業の大小や、もともと持っていた粗利の大きさみたいなもので左右されることはあるかもしれませんが、どのような企業であれ、そこそこ順調に回っているところでも手元資金はまあだいたい半年から一年もあれば多いほうで、三カ月ぐらいのバーンレートで頑張って営業やってるところが多いんじゃないかと思うんですよ。

 んで、厚生労働省や経済産業省もいろいろ考えて助成をしてくれます。雇用調整助成金なんて典型ですけど、これだって実際に申請をして支給されるのは2か月後だ、いやそれ以上だ、ってのはあるかもしれない。しかも、金額としては不充分だろうと思います、まともに経営している会社なら。政府系金融機関(政策金融公庫や商工中金など)は結構こういうとき積極的に相談に乗ってくれるんですけど、借入のスロットを一本化したら、後からドカンと借り換え時期がやってくる…。

 そして何より、低利で融資します、何となれば利息入りません、元金の返済は5年後でええですよ、と言われても…。

 借金は借金なんですよね。

 売上が消し飛んで困っているわけですよ。利益が出ていない事業で、そこから幾ら無担保でもカネを借りることの恐怖と言ったらない。

 私も親父の会社で嫌というほど経験しましたが、13億とか借金があって、期限の利益を喪失するとあっさりサービサー部門に債権が回って、元金返済はできないけど金利だけ払います、その金利も一部だけ払いますってモードにして、気球が低空飛行になったら砂袋を落とさなければならない。

 借りてる不動産もさっさと退去の申し出をしたり、減賃交渉に打って出て、契約社員さんとパートさんを泣きながら解雇する。そして、正社員に手を付ける。このとき、退職金がガッツリ積まれている場合がまた多いわけでして、会社としては「退職金はこれだけしか払えません」と口座をフルオープンして交渉するしかないんですよね。そして、大概の場合、労働審判になり、審尋のために何度か東京地裁に足を向けることになる。

 まあ、いままで雇っていた人たちとテーブルの反対側に座ってカネを払うの払わないのでやり取りしたのは辛い記憶ですけど経験としては修羅場を踏ませていただきましたよ。産業廃棄物業界や、中国での事業撤退など、若輩者であった私からしますと早い段階からブレーキを躊躇なく踏むトレーニングをさせてもらって本当に良かったと、いまにしては思います。

 そのとき、私が「会社を潰します」と言えばどんなに楽なことか。社員も雇用調整か共済か分かりませんが8割ぐらいは退職金が補償される、潰れれば。しかし、こちらとしては事業を存続させたいわけですよ。なぜなら、潰れたら生まれ育った家も大事に抱えてきた親父の資産も全部はぎとられるから。借り換えのときに、先にサービサーに回ったので、私は連帯保証を求められなかった分、(そのときは)助かったんですよね。しかも、事業が存続するにあたって、自分の身銭も一緒に切っちゃうことは避けたい。自分の資産は、最後の最後まで自分が頼るものだから。

 会社存続で切り抜けて、資産売却のめどが立ち、親父の連帯保証が外れ、差し入れている担保物件の抵当が抜けてようやく「おお、どうにかなった」となるわけです。借金棒引きではないけれど、仮に事業が倒産・清算せざるを得なくなっても手元に物件は残る。事業というものは上り坂、下り坂、まさかの対応が必要、と古い経営者はよく言うのですが、上手くいく儲け話の相談は乗ってくれても、辛いときに全く頼れないのが他の経営者であり、銀行であり、取引先です。可哀想だな、少し多めに払ってやろう、とは「絶対にならない」。

 逆の立場で言えば、他の会社が苦しい、助けて欲しいとなったとき、友情とか真心で「どうにかしてやろう」という話になるのは、その会社の行く先に光り輝く何かを見て取れたときです。未来があれば、投資先になる。私も支払いの減免まではお付き合いすることはあっても(貸し倒れて次期の税金がいってこいになるわけだし)、たとえ出資先でも当面のB/Sが良くても、いまのキャッシュアウトを絞るのが遅れたところは救済しません。

 昔、友人と出版社をやろうという話になり、途中までうまくいったところでリーマンショックが来て共同出資元が飛び、どうにもならなくなりました。いきなり潰れられても困るので、二千万ぐらい入れたところで「あと三千万必要だ」「新規の出資を入れて欲しい」と散々要請されて、そりゃもう他の友人が救わない状態なら、彼らとの付き合いもこれまで、ということで「追加で入れた二千万はお前らが連帯保証しろ」とガンガン言って、その会社が潰れても共同出資していた関係先からはした金がいまでも毎月返済される形を取りますわね。

 その代わり、なるだけ最後まで社員さんは守るし、私の個人会社でも引き取る。そのときに雇っていた人たちは、いまでも、弊社の社員ですけど。もう、10年ですか。それだけ、いざというときに取れるオプションを増やしておくこと、逃げる算段は用意しておくことは大事なのです、事業や社員さんを守るために。

 売上が急減して「こんなはずじゃなかった」と思っている経営者はたくさんいます。ROE経営だと言って、ギリギリの内部留保と現預金で資本効率を最大化すると言って、株式上場目指してB/Sパンパンに膨らませている人たちは少なくありません。

 でも、経営者の観点からして、全力で走っている人、余力泣くすべてを再投資に回し、社員さんがカリカリに枯れるまでケツを叩いている企業って、一個ドカンと横波を喰らうと為すすべなく一気に沈没するんですよ。持ってる物件に抵当入れて借入するところまでは良いとしても、それを全力で事業拡大にぶっ込む経営者はチンパンジーです。おまえ、以前にも似たような全力2階建てで経営やってコケて巨万の負債を背負っとったがな…。世の中、本当に何があるか分からないし、その何かあるか分からないときに生き残ることを考えたら、また、雇った社員さんの人生を守ることを大前提にするのならば、ちゃんとした現金を持ち、必要なだけの人員を雇い、現金化できる資産に余力を持っておくべきなのです。不必要にカッコつけず、会社と個人の財布はなるだけきちんと別にして、慎ましく経営することが大事です。あした売上がゼロになっても半年は我慢できることが事業と雇用を守るボーダーであると私は思っています。

 さらに、自分の資産はちゃんと防衛しておかなければなりません。なるだけ自分の所得は会社につけておき、きちんと税金を払い、焦って借り入れをしなければならないような状況に陥らないように、仮にそうであったとしても借入余力が残るように、チャラチャラやらず、オフィスを華やかにせず、現金を大事に大事に握りしめながら経営するのです。

 大きな危機のとき、最後に大事なのは自分が自由になる、安全な資産がどれだけ残っているかですよ。別に会社の経理を細かく毎日観る必要もないけど、出る金をきちんと絞り、派手にやらないことが重要です。経済全体が順調なときに、きらびやかな事業展開で豪語するのもまあ経営者にとって良くあることだとは思います。でも、綺麗なオフィスや大きな自家用車ってその期の税金対策にはなっても、それ単体が収益を上げてくれるわけではないのですよ。綺麗なオフィスで働きたいという採用での有利さを説く人もいますし、一面ではそれは正しく、そうやってきてくれた人が稼いでくれることも期待はできるけど、個人的にいろんな企業や投資を見ていて思うのは、そういう人ほどしんどいときに離れていく人でもあるのです。

 それもこれも、社員さんを切らずに事業を守り、最終的に自分の資産をきちんと残して危機を乗り越えるためにあることです。

 ここまで考えてもなお、社員さんを切らなければならなくなったときは、辛い。幸いにして、私の会社では解雇する必要はないし、いつまでも、私が会社を畳む判断をするか社員が「もうええわ」というその日まで一緒に仕事をしたいなあと思うわけです。

 なぜかって、社員さんを切るのは辛いから。会社を大きくするのは苦しい面もあるけど、社員さんを切る局面は辛い。だから、私は社員さんを切らなくて済むように経営をするのが一番良いと思ってます。

 それでも事業をどうにかしなければならなければ、辛い思いをしつつも濡れた雑巾を絞るように思い切るしかない。それが本当の「経営」なんだろうと私は思います。

画像1


神から「お前もそろそろnoteぐらい駄文練習用に使え使え使え使え使え」と言われた気がしたので、のろのろと再始動する感じのアカウント