ねこペティREMIX#7「つくし」 (エッセイ「SF」)
「つくし」
(Horsetail)
そらをめざして
のびるゆび
ここまでおいでと
とびこした
つぎのひ
くやしかったのか
ばいにのびてて
おなかをなでた
今回登場したねこ:ユメ
2歳オス。好奇心旺盛でいらんことしい。
SF
何年たってもつくしの姿にはちょっとした違和感を覚える。
ひなたのみどりの中に立つ肌色の棒。
雨上がりの朝見慣れた散歩道に急にきのこが生えている、それに近い違和感だ。
色だけじゃない。
姿かたちもまわりの草の文法とはまるで違う。
シダ植物だから当たり前っちゃあそうだけど、僕の知るシダ類は、たいていは山の日陰にいるもので、こう堂々とひなたにいられるとやっぱり少し戸惑う。
小さい頃はつくしが少し怖かった。
身近な地面から異界のものが顔を出す、そんなふうに感じていたのかもしれない。
ある日僕は何を思ったのか、地面に腹ばいになってつくしを見上げてみた。
眼の前に、日を浴びた巨大シダ類が生え茂る太古の風景が広がった。
恐竜図鑑で見たやつだ。
それから僕はつくしをかっこいいと思えるようになった。
たまにだったが、僕らが集めたつくしを母が佃煮にした。
おそらく父が好んだのだろう。
味よりも、太古のロマンが強引な庶民化に屈したような、黒くしおれた姿のほうが印象に残っている。
雑誌に扉絵を連載していた頃、前景に巨大なつくしのある絵が浮かんだ。
全体の3分の一をつくしが占める構図だったから、適当にやるとすかすかの画面になる。
そこで身を入れてつくしの造形を調べてみると、6角形のうろこがびっしり隙間なく覆うラグビーボール状の頭はまるで精巧な宇宙船。全身はかまに包まれた新芽からなじみの成体に変わるさまは伸縮自在の武器のようだった。
あらためてつくしはかっこいい。
そしてやっぱりすこしこの世からずれている、そう思った。
そういえば今年はつくしの姿を見ていない。夢中で本を作ってた、去年よりかは暇なのに。
などと首を傾げていたけれど、単純な理由にあとから気づいた。
家の前にあった造園会社の資材置き場が、ケーキカットされたような3階建てが並ぶ一角となり、毎日見ていた雑草の森が消滅していたのだ。
こうして異界はふんわりと、ぼくのまわりから遠のいてゆく。
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