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【読書記録】ロバと歩いた南米アンデス紀行 初版1998年

こんにちは。
面白い本を読んだので記録をば。

ロバと歩いた南米アンデス紀行
初版1998年の古い本で、スマホもない時代に南米をロバと一緒に歩いた青年の徒歩紀行です。

踏破距離5700km 307日の物語です。
まだ小学生にも上がっていないころの本ですが、尊敬する写真の先生に「30代の私にお勧めする本ありますか?」と聞いた時に、先生のたくさんの本が詰まった本棚から手渡してくれました。おかげでこちらの本と出会うことができました。

帯が歴史を吸っています

スマホもなく、SNSもない時代。
誰かに承認されたいわけでもなく、ロバと一緒に歩いた著者 中山茂大さん。

旅の始まりはボリビアから。
前歯の欠けたインディオのおばあちゃんがいっていた「アルゼンチンの国境はここからずっとずっとずーっと遠くなんだから歩いていけるわけがない」
そんな呆れる程遠い距離をひたすら歩く道中におこる出来事が紡がれています。

エルボルソンの街で、
牡丹のような雪が降ってきたところは
印象的でした。

右下の踏破距離でどのくらい歩いてきたのかわかります。まだこれだけ残ってる、から後半にはあと少しあと少し、となる感じが好きでした。
星の位置や気候が変わるほどの距離を歩いているのだと、そしてロバのパドロフのぼる君(女の子)との面白いながらも友情のようなものを感じるやりとりから感じました。
体験の中でも極めて苛烈だったのでしょう、自然への描写がとにかく細かくて、世界は私が思っているよりも荒涼としていて、気まぐれように過酷な環境が広がっている。それでもそこに住んでいる人がいるんだ、と思いました。

1992年、まだ写真もフィルムの時代なので文章から情景を想像するしかありません。
今みたいに気軽に写真が撮れなかったのかな、と物語のエピローグで著者がパドロフのぼる君との写真を現像している描写を読んでやっと気がつきました。そういえば、旅行記なのに写真があまりなかったな、と物語の終わりで気がつきましたが、著者の心情や細かい風景描写とあまりに日本と異なる環境でほとんどファンタジーのように感じていたため気にならなかったです。

バカじゃねえのか、おまえ。金持ってんのかよ。

ゴールまであと230キロの街、リオ・グランデの町で、たまにはいいだろうと入ったお店で言われた言葉。汚い身なりを見ての判断だろうが、大金を持っていても人生で1番蔑まれたことに衝撃を受けていました。そこから何かが始まるでもなく、一つのエピソードとして過ぎ去っていくことがとてもリアルでした。

胸ぐら掴んで怒ったり、お金を見せつけて見返そうとしたりしない。ただ、言われた鋭利な言葉を自分の中で反芻するだけ。処理できないような言葉を言われた時、反射的に返せる人はあまりいないんじゃないでしょうか。実際にはびっくりして過ぎ去ってしまうことが多いんじゃないかと思いました。

そんなことがあろうと、序盤で馬が逃げようと銃をつきつけられようが、雪の中で死にかけようが、同じくアンデスを自転車で越えようとした若者がそのまま行方不明になった話を聞こうが、次の日にはまた淡々とロバと一緒に歩く。

崇高な使命やスポンサーを抱えているわけでもない。多くの人に助けられ、声をかけられ、ロバと一緒に歩き続けることは並大抵のことではないと思いました。
お世話になった人とのその後の繋がりも大切に書かれていたのもよかったです。さらっと書かれていますが、帰国してから色んな人たちのことを忘れることなく著者が縁を大切にしていたことが嬉しかったです。



今ではSNSで旅行だけでなく、趣味や言葉一つがお金になり得てしまう。本当は自分の世界なのに不特定多数の他人が介在してしまったり、他人を意識したものになってしまったり。
そんな今読むからこそ、この1992年にアンデスをロバと一緒に歩いた人の言葉がとても面白かったのかもしれません。

先生、素敵な本に出会わせてくれてありがとうございました。

旅の終わり

詳細

ロバと歩いた南米アンデス紀行
著者 中山茂大
発行社 株式会社双葉社

精進します。
切り絵作家 ひら子

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