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知らないでしょ

あーーーー、だるい…
朝に目が覚めて体のだるさを感じたけれど
寝れば治るだろうなんて安易に思ったわたしを殴りたい
治るどころかなんだか熱が上がってる気がする

"こりゃ病院行かないとだめなやつかなーめんどくさいなーひとり暮らしってつらいなー"

などとぶつくさ言いながらもかかりつけの病院の診察券を見ると、午後の診察受付終了時刻までもうぎりぎりだった

"やばいやばい週末サークルあるからそれまでには治したいのに!!"

慌ててそこらへんにあった服を着て、すっぴんとボサボサ頭を隠すようにマスクをしてキャップを被る
遠目から見たら週刊誌にスクープされた芸能人のよう
最近買ったお気に入りのスニーカーに足を突っ込んで家を飛び出した

"ふぅ…間に合ってよかったー!薬も貰ったしご飯食べてこれ飲んで寝れば治るでしょー!"

ふと、あるお店の前で足を止める

"あ、このお店…そういえば今日あいつバイトだよな、時間的にそろそろなんじゃないのかな、もしかしたら顔だけでも見れないかな…"

わたしはそのお店の近くにあるコンビニに入り、ついでに胃腸にやさしそうな食べ物や飲み物を物色する

"えーと、、おかゆとか、ヨーグルトとか?あとは何がいいんだろう…"

コンビニの自動ドアが開いてチャイムが鳴る度に、店員さんの「いらっしゃいませ」と同時に入り口を見てしまう

"んー…来ないなあ、偶然街で、とかやっぱあり得ないのかなあ……"

わたしは本当は知っていた
時計の針はもうちょっと先に進むべきだったんだってこと
でもちょっとでも可能性があるならって思ったんだ

お会計を済ませてコンビニの袋をぶら下げたまま、地下鉄の駅を気にしながらゆっくり自分の家の方へ歩いて行く
それでもお目当ての人物は現れない
時計を見る

"あいつのことだからきっとギリギリまで寝てるんだろうな
…はぁ、あいつはほんとに、わたしのこと何とも思ってないんだろうな"

昔から「あなたは察しがいいわね」なんて言われてきたわたしだから
全部、全部、本当は知っている
そろそろ来る冬の訪れを伝えるように吹いた風は冷たいのに
わたしの熱は上がっていくみたいで

ああ、きっとあなたは優しいから
「風邪ひいてるならこんな寒いとこにいないで家であったかくしときなよ」
って不思議そうに言うんでしょ
あなたは知らないでしょ
熱が上がることよりももっと、それよりも…わたしはね…

大丈夫、またサークルで会って、普通に話して、普通に笑って、普通の仲のいい友達でいられるから
友達でいられなくなるならわたしはそれでいいって決めたから

こんなに思い悩んでいるわたしの胸の内を
あなたは知らない

ありがとうございます。サポート代はマイク等の機材費の足しに使わせていただきます。環境が整えば音声作品を投稿する予定です。