サワガニ
「こんなところで…」
道の先にはうすくて赤い甲羅のサワガニ
最近の強い日差しに干上がりつつもゆっくりと横歩き
だいぶ下ったところに川があるからそこから来たのだろう
「そっちに水辺はないよ」
もちろんサワガニは進み続ける
このままだと車に轢かれるか乾ききってサワガニの一生は終わるだろう
わたしはハサミで切られないようにサワガニの甲羅をそっと持って川へと歩く
「最近は暑いでしょ、川はこっちだよ」
言いつつわたしはサワガニと川へ向かう
サワガニは一体どこへ向かっていたのだろう
昼間の日差しなんか殺人的といえるくらいなのに
詳しくないけどよく夏に道端で干からびてひっくり返ったサワガニを見るから水がないと生きていけないんじゃないのか
夏にはミミズとかも干からびているのを見るなぁ
みんな、みんな何か目標でもあるのだろうか
わたしなんかと違うんだ、こいつは
サワガニを見て思う
こいつだってなりふり構わず生きているんだろうか
わたしにはわかることもないだろう"何か"を達成するために
無意味に夜を過ごして早朝徘徊なんかをしているわたしとは大違いだ
わたしの目標はなんだ?
わたしは一体どこに向かっている?
右手の人差し指と親指で挟んでしまえるくらいの命を救うことくらいしかできないな
それでもこのサワガニもきっとわたしが意味もなく生きているうちに死ぬ
「ほら、乾いてたでしょ、川だよ」
わたしは川の流れの弱いところにサワガニをそっと置いて
「今通ってきた道はもう通っちゃだめだよ、それじゃ」
そろそろ徘徊も終わりにして帰ろうか
サワガニはわたしの背後で顔を出した朝日に向かって水の中を進む
ありがとうございます。サポート代はマイク等の機材費の足しに使わせていただきます。環境が整えば音声作品を投稿する予定です。