レース模様の図書室、再訪｜影山多栄子《2》｜誰かのお人形、誰かの忘れ物
Text｜KIRI to RIBBON
雨の一日になりました。
図書室の菫色はいっそうグレイッシュに落ち着き、時間もゆったり流れています。いつも聞こえる少女たちの囁き声もなく、図書室には雨音だけが響いています。
少女たちのいない図書室を訪ねてみましょう。
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英国文学の書架に置かれたままのお人形がありました。
いつ、誰が置いたのか、誰の持ち物なのか——ある時ひとりの司書が持ち主を探すべく、古い関係者にもあたって調査したことがありました。しかし、お人形の存在ははっきりと覚えているものの、口を揃えて「最初からそこにいた」と言うのです。
かなり古い時期からそこにあったことだけはわかっています。しかし不思議なことに、そのお人形には古びた様子がなく、白いレース飾りも綺麗なままです。可愛らしいかんばせに昔からの友達みたいな愛着が湧きますが、書架で出会うたびに新しい訪問者のように感じるのは、いつもおろしたての石鹸のように佇んでいるからなのです。
図書室とは、そんな場所かもしれない——司書はふと思いました。古い友達のような愛着と、新鮮な喜びとがやわらかく入り混じる場所。そのお人形は、私たちの古くからの友達であり、何度も読み返してきた物語でもあり、また、これから出会う友達でもあり、まだ読んでいない物語でもある。
誰もいない図書室で、お人形はやさしい笑みを浮かべて座っています。いつのまにか雨は止み、小鳥の囀りが聞こえてきました。
「おかえりなさい、はじめまして」——
影山多栄子さまのお人形に出会った時、そんな風にご挨拶してしまいます。私のところに帰ってきてくれた懐かしさと嬉しさがあり、そののち、あれ？誰かが大切にしてきたお人形が届いたのかも？と、誰かの気配を同時に感じるのです。
ドレスに施されたステッチに象徴される手仕事のぬくもり、存在することで豊かな物語が動きだすオリジナリティ。日常の場にしっくりとおさまり、私たちの生活に伴走しながら、ふと気がつくとこんな遠くまで、見知らぬ場所へ、私たちを連れて行ってくれる——「遠くをみている」影山さまのお人形と、これからもずっと暮らしてゆきたいです。
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さきほどから、視線を感じます。
雨が上がったばかりの図書室には、奥にいる司書さん以外、誰もいません。ちいさな存在が動きました。近づいてくる気配を感じます。
図書室に誰もいない時や空いている時、頁の隙間から出てきて、一緒に読書してくれるちいさな布人形がいるらしい——少女たちのお喋りを思い出しました。
かつてのやさしい少女たちが残していってくれた、ちいさくとも心強いお友達が、菫色の図書室にはいるようです。
素材違いの布を組み合わせ、ビーズやボタンで装飾を施し、不思議な存在を生み出す影山多栄子さま。布製のちいさなお人形は、影山さまのチャーミングな造形感覚が発揮されたシリーズ。いつの間にかそこにいる御伽感が特徴です。
たったひとりでも愛らしいですが、影山さまのほかのお人形たちといる様子はまた格別です。立てたり、裏返したり、横になってもらったりと、気軽に触って動かすことができるのも嬉しい存在です。
菫色の図書室には、影山さまの精霊たちや少女たちのかつての／いまの／これからのお友達が住んでいます。
書架で出会ったお人形たちとの記憶がレース模様になって、春の風に心地よく揺れている場所へ、私たちはいつでも帰ってくることができるのです。
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影山多栄子 ｜ 人形作家 →Blog
山吉由利子（球体関節人形）、宮崎優人（市松人形）に人形制作を学ぶ。石粉粘土と布を中心に様々な素材を使い、ひとりひとり違うお話を感じさせるような可愛らしさと不思議さを持った人形作りを心がけています。
［個展］2003年 「うきわ」（ギャラリー古桑庵）、2004年 「まくら」ギャラリーNonc Platz。以後数年おきに個展を開催。ほか企画展、グループ展など多数。2007年創作人形専門誌「Doll Forum Japan 49号」表紙掲載。2018年 作品集「遠くをみている」発行。
影山さまのblogで本展出品作をご紹介中です。美しく愛らしいお写真と素敵なコメントで構成された記事をぜひご高覧下さい。お人形の全方位写真も掲載されています。
ご紹介済みの影山多栄子さまの新作《1》と
Artist’s Tiny Letterはこちら
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作家名｜影山多栄子
作品名｜誰かのお人形
石粉粘土・アクリル絵具・布・ポリエステル綿ほか
作品サイズ｜身長24cm 座高15cm
制作年｜2021年（新作）
＊別ショットの画像をオンラインショップに掲載しています
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作家名｜影山多栄子
作品名｜誰かの忘れ物（2種）
布・布えのぐ・ポリエステル綿・ガラスボタンほか
作品サイズ｜身長10.5cm
制作年｜2021年（新作）
＊別ショットの画像をオンラインショップに掲載しています
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