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ディケンジング・ロンドン|TOUR DAY 6|非商用の旅人

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 ディケンズの夏の思い出を辿るように、夜のロンドンを歩き、ディケンズお気に入りの墓地へと向かいます。

 耳に染む静寂と鬱蒼とした緑を縫って歩いて行くと、人形作家・山上真智子さまの美しい白を纏った天使像が悠久を見つめてきた面差しで佇んでいました。

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山上真智子 | 人形作家 →Twitter
1989〜1990年、人形作家天野可淡氏に球体関節人形を学ぶ。
1999年・2006年、個展新宿アユミギャラリー。
2013年・2019年、個展初台Zaroff。

00_ツアー案内_文と訳

ディケンズお気に入りの墓地
 『非商用の旅人』は商品ではなく空想を求めて、ディケンズの分身のような語り手が旅をしてまわる随筆集である。その中の一編である「不在者の町」では、ディケンズお気に入りの教会墓地をめぐる様子が、ユーモアたっぷりにつづられる。こうした界隈では、夏場は閑散とし、活気がなくなるために、旅をするにはベストシーズンであると語る旅人は、大好きなスポットであるシティの教会墓地を紹介する。

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 旅人にとってたまらないのは、雑草が繁茂して、静まり返った場所にある、誰からも忘れ去られたような墓地である。シティの教会墓地の魅力を嬉々として語る旅人は、彼お気に入りの墓地を次々に紹介してくれるが、その中でも最愛の教会墓地の一つが、セント凄惨教会という仮の名で語られる、シティの中心部にあるセント・オレイヴ教会の墓地である。

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 セント・オレイヴ教会の墓地は、まるで牢獄のように獰猛で丈夫な忍び返しのついた鉄門のある、小さな墓地である。鉄門には石でできたドクロと斜めに交差した大腿骨が飾ってあるが、串刺し刑のように鉄棒が突き出した鉄門の上で、まるでそれに刺されたようにドクロが恐ろしい形相をしているのが、語り手にとってはたまらない魅力として映る。

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 深夜に最愛の墓地に行きたい気持ちを抑えられなくなった語り手が、馬車で向かうと、雷と雨の中で見た真夜中のドクロはまるで公開処刑のように見えた。雷が光ると、ドクロが鉄棒で突き刺された痛みで苦しんでいるように見えるのも効果抜群であった。つまり、もう最高だった。今、目にした光景の興奮を、我慢できずに待たせていた馬車の御者に話すと、御者は顔を蒼白にして、まるで幽霊でも見るかのように語り手をじろじろと見たが、これもまた語り手にとっては楽しい思い出の一つであった。

 この語り手はディケンズであってディケンズでない人物であるが、ディケンズ自身がこうした墓地めぐりを楽しんでいたのは事実である。不気味な教会墓地は、作家のインスピレーションを大いに刺激する場所であったが、同時に、人であふれ返るロンドンの中で、誰からも忘れられたような界隈で、ひっそりとたたずむ墓地の姿は、作家の心に安らぎを与えてくれたのかもしれない。

熊谷めぐみ | 立教大学大学院博士後期課程在籍・ヴィクトリア朝文学 →Blog
子供の頃『名探偵コナン』に夢中になり、その影響でシャーロック・ホームズ作品にたどり着く。そこからヴィクトリア朝に興味を持ち、大学の授業でディケンズの『互いの友』と運命的な出会い。会社員時代を経て、現在大学院でディケンズを研究する傍ら、その魅力を伝えるべく布教活動に励む。



00_通販対象作品

作家名|山上真智子
作品名|白の天使

題材|不在者の町(『非商用の旅人』収録)
石塑粘土・その他(油彩仕上げ)
サイズ|縦38cm×横26cm×奥行18cm(ボックスサイズ)
制作年|2020年(新作)
*平置き、壁掛け両方可能

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Text|KIRI to RIBBON

 お気に入りの墓地を「セント凄惨」と呼ぶチャーミングな感覚で夜の墓地を満喫するディケンズのゴシックな足取りが聞こえてきます。

 人形作家の山上真智子さまがそんなディケンズに捧ぐのは、白薔薇を携え、その中の一輪を差し出す白の天使像。いにしえの昔からその場所に佇み悠久を過ごしてきた哀感あふれる一作です。

 『クリスマス・キャロル』をテーマに制作された《黒の天使》と対をなす《白の天使》。深い沈黙に彩られた天使像はどちらも淡いブルーを背景に清廉な方向にゴシックの翼を広げ、それ故、ダークな美意識がありきたりではない、いっそう研ぎ澄まされたものとして作品に宿っています。

 差し出された白薔薇を、ディケンズは喜んで受け取ったことでしょう。

★山上真智子まの他の作品★

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