少女の聖域vol.2|きむらももこ|あの日の夏空
Text|Kayoko Takayanagi
記憶の中の少女はいつも風に吹かれている。
抜けるような青い空。積乱雲に飛行機雲。降り注ぐ日差し。
光が強い分だけ、影が濃くなる。
いつか見たはずの風景の中に立つ少女は真っ直ぐこちらを見つめているが、その瞳には誰も映っていない。
それは存在しない記憶だから。
「いつかの風景」と名付けられた2つの作品。
そこに描かれているのは、つばの広い麦わら帽子を被り黒いワンピースを着た少女である。襟に付いた白いフリルやレースが清涼感を醸し出し、汗ひとつかかぬまま、風にその黒く真っ直ぐな髪を揺らしている。
どこか懐かしいこの風景は、わたしたちの記憶の中にある夏を象徴しているように思われる。そこにはいつも一人の少女が佇んでいるのだ。
きむらももこの作品には、様式美と呼べるものが備わっている。
それは一目見てその作者のものとわかる独自性や個性を超えた、固有のカタチだ。
彼女の作品に登場する少女の印象的な白い肌や艶やかな黒髪には、日本画の技法があますところなく活かされている。紙にのせられた墨の質感は、実際に目にすると驚くほど美しい。
彼女の作品に登場する少女は、姿を変え表現を変えても、たった一人なのではないか。
引き込まれるような藍色の海とどこまでも続く砂浜。
手を切りそうな青々とした草が胸元まで生い茂った草原。
行ったことのない懐かしい場所で、少女はずっと待っている。
あの夏の記憶とともに、存在しなかった少女がそこに在る。
大好きな愛玩物に囲まれて、自分も無造作に投げ出された人形のように、靴を放り出して草叢に寝転ぶ少女。
小さな鏡台、ドールハウスの家具。ネコにウサギにテディベア。
走り疲れて倒れこんだ少女は、あなたかもしれないし、わたしかもしれない。
ここは小さな匣庭。
しんと静まり返った記憶の中にいつもあのこがいてくれるから、これからも安心して先に進めるのだ。
あなたの思い出の中にもきっと、あの少女が存在している。
いつかの夏の記憶とともに。
潮の香りと草いきれを道連れにして。
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きむらももこ|絵描き →Twitter
稚内生まれ。神奈川県在住。あの少女について考え、描く。ファッションブランド「keisukekanda」のイメージイラストなどを手掛ける。日本画、ドローイングを中心に個展、グループ展など活動中。
個展
・2011年「あたまのナカはあのコでいっぱい」/ vintage clothes shop the Virgin Mary
・2019年「とわのいらつめ」/ 新宿眼科画廊
グループ展等
・2016年「マジックミラー / 大森靖子」CDジャケット
・2020年「少女の聖域」/ 霧とリボン
・2020年「少女観音」/ gallery hydrangea
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★2020年オンライン開催《少女の聖域》展アーカイヴ
★高柳カヨ子note連載《少女主義宣言》関連記事
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作家名|きむらももこ
作品名|思い出の匣庭
墨・胡粉・水干絵具・岩絵具・雲肌麻紙・木製パネル
作品サイズ|31.8cm×41cm
制作年|2021年(新作)
*額なし
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作家名|きむらももこ
作品名|いつかの風景・一
墨・胡粉・水干絵具・岩絵具・雲肌麻紙・木製パネル
作品サイズ|18cm×14cm
制作年|2021年(新作)
*額なし
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作家名|きむらももこ
作品名|いつかの風景・二
墨・胡粉・水干絵具・岩絵具・雲肌麻紙・木製パネル
作品サイズ|18cm×14cm
制作年|2021年(新作)
*額なし
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