ディケンジング・ロンドン|TOUR DAY 4|オリヴァー・ツイスト《1》
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ツアー後半がスタートしました。DAY 4の今日最初に体験するのは『オリヴァー・ツイスト』の世界。
ペントンヴィルのとある家で、ひとりの女性へのオードたるブルーに出会いました。造形作家・川島朗さまよる記憶の水紋に眠る女性の肖像をお届けします。
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オリヴァーが見た肖像画
フェイギンが子供たちに行わせている仕事がスリであると知ったオリヴァーは、恐れをなして逃げ出すが、ドジャーたちに罪をなすりつけられ捕らわれる。衰弱した姿を哀れんだ老紳士ブラウンローに引き取られたオリヴァーは、手厚い看病を受けて回復した部屋で、美しく悲しげな表情をした女性の肖像画を目にする。オリヴァーの看病をしていたベドウィン夫人は、熱心に絵を見つめるオリヴァーの瞳に畏怖の念が浮かんでいるのを見て驚く。
絵が自分に話したがっているようだというオリヴァーの話を聞いて、病み上がりで感じやすくなっているのだと判断したベドウィン夫人は、肖像画が見えないようにオリヴァーの座る椅子を反対に向ける。視界から消えてもオリヴァーの脳裏にその絵は焼き付いていた。
しかし、肖像画に興味を引かれたのはオリヴァーだけではなかった。オリヴァーの様子を見にきたブロウンロー氏は、肖像画の絵とオリヴァーの顔があまりにもそっくりなことに気が付いて驚きの声を上げる。
椅子の向きを変えたことで、肖像画とオリヴァーが同じ方向を向くことになり、二人の顔がそっくりなことが明らかになる。病み上がりのオリヴァーはその声に驚きショックを受け、再び気を失ってしまうが、目を覚ますとすでに肖像画は片付けられていた。オリヴァーが熱心に見つめていたその肖像画こそ、母アグネスの姿を描いたものであった。しかし、何も知らないオリヴァーのブラウンロー氏の家で過ごす束の間の幸福な時間は、まもなく終わりを迎えようとしていた。
母アグネスの形見
オリヴァーの母アグネスは、運び込まれた救貧院でオリヴァーを生んですぐに亡くなるが、そのとき形見の品として、髪の毛が二束入った金のロケットと、内側にアグネスの名前と日付が彫られた金の結婚指輪を持っていた。それは死後、彼女を看取った救貧院の老女に盗まれていたが、老女が亡くなるとき、コーニー夫人の手に渡る。
身元不明の孤児であるオリヴァーにとって、アグネスの形見の品は、アグネス・オリヴァー親子の身元を証明するものであるが、モンクスと名乗る男がそれを手に入れようと現れる。教区役員のバンブルと結婚した計算高いコーニー夫人は、アグネスの形見が金になることに気づいていた。
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作家名|川島朗
作品名|透明な鳥 / アグネス
作品の題材|『オリヴァー・ツイスト』
ミクストメディア
作品サイズ|7.4cmx8cmx3.1cm
制作年|2020年(新作)
Text|KIRI to RIBBON
オリヴァーの母アグネスへのレクイエムが水底に射す光のように揺れている。幾星霜、光射すごとにいっそう水は澄んでゆき、沈んでいた幻影を過去からゆっくりと呼び覚ます——
水底から掬った清流のブルーが封印されたちいさなボックスオブジェ。オリヴァーの純真の水源たる母アグネスへのオードが深い静寂の中で詠われています。
川島朗さまの作品の中で繰り返し印象的に用いられるブルー。今回出会ったブルーは、人知れず水底で透明感を深めていったひとりの女性の命の煌めきでした。
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作家名|川島朗
作品名|Unforgettable / アグネス
作品の題材|『オリヴァー・ツイスト』
アクリル絵具・デジタルプリント・樹脂・ 紙・フェルト・シャーレ
作品サイズ|直径9.2cmx2.1cm
制作年|2020年(新作)
オリヴァーに生き写しの母アグネスの肖像。肖像画の上で交差する、アグネスの過去とオリヴァーの現在。ふたつの時間が行き交う詩情をブルーに込め、時の標本としてシャーレに納められている——
時と共に風化し錆び付いてゆく背景とは対照的に、封印されたブルーの肖像は時を止め、瑞々しいまま保たれています。
川島さまのブルーは、時の象徴として作品ごとに豊かな詩を紡いでゆき、朗読されることを待つ哀感と共に私たちの現在に届き、時の不思議を伝えてきます。
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★川島朗さまの他の作品★
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