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二人展《空はシトリン》|DAY 1

本記事はオンライン展覧会《空はシトリン》DAY 1の配信記録です。

最終日8月4日夜までに、全出品作がここオンライン・ギャラリー(note)と霧とリボン オンラインショップに並びます。

Text|霧とリボン

 コントラストの強い陰影が空気を刻む盛夏の頃、翻って菫色の小部屋には、霧けぶる淡やかな色彩世界が広がっています。
 私たちの夏フェス、影山多栄子 & 永井健一 二人展「空はシトリン〜宮沢賢治『春と修羅』に寄せて」が本日開幕致しました。初日の今日、オンライン・ギャラリーを訪れて下さいました皆様に厚く御礼申し上げます。

 霧とリボンで長くご活躍頂いてきた二人のアーティストが『春と修羅』の世界に向き合い、薄きページから豊潤な作品を生み出しました。本日を皮切りに四日間の会期で、作品を順次ご紹介してゆきます。涼しい場所から、どうぞゆっくりご高覧頂けましたら幸いです。

 本展の幕開けを飾ったのは、作家兼ウェブメディア『彗星読書倶楽部』管理人・森 大那さまの巻頭エッセイ。かねてより、Youtubeチャンネルでの文学解説はじめ、彗星読書倶楽部さまのご活動に敬愛を抱いてきました。今回ご寄稿頂くことが叶い、本当に嬉しいです。

 澄み切った泉から湧き出たような玲瓏明晰なエッセイは、身体をまっすぐに貫く知性の存在を呼び覚ます一篇。宮沢賢治の詩の最深部に直に手を触れ、指先に残った澱を一滴一滴インクにして、冷徹なペンで擦過してゆく。真摯に文学に向き合った軌跡がなければ成し得ない偉業。透明度はその旅程が誠実である証。

 宮沢賢治の詩論から、芸術家論、読者論へと流れゆくエレガンス。「曲がり角」としての芸術家、そして読者の存在意義は、私たちへのエールでもあります。「姿の見えない起源」を受け継ぐ気概を持って、一冊の書物、ひとつの芸術作品に出会い、「角の向こう」へと共に歩みを進める——森さまの鮮やかなエッセイから続く本展が、そのような場となれましたらと願います。

 本編のスタートは、メインヴィジュアルを含む作品のご紹介から。夏フェスのフロントロウを飾る作品群、お楽しみ頂けましたでしょうか。
 詩人・嶋田青磁さまの伸びやかな筆致が、明滅する命を慈しむように、二人のアーティスト作品に伴走します。

 続いて、永井健一さまの大作を含む四作品をご紹介。絵筆を持つ詩人、永井さまが『春と修羅』に出会うことで生まれたシトリン色の広大な自然。
 詩人・翻訳家の維月 楓さまが空を翔けながら、ふたりの詩人の交差点で詩集を編んで——

 本展では、二人のアーティスト作品をミックスして紹介する記事、各アーティスト作品を個別に紹介する記事、ふたつの構成で配信を行います。最終日まで、どうぞお楽しみください。

 ここで、本展開催のきっかけについて、少し長くなりますが、お話したいと思います。

 2021年4月オンライン開催した「レース模様の図書室、再訪」展準備期間中のこと——。アーティストの声をお届けすべく企画した「Artist’s Tiny Letter」へのご回答が影山多栄子さまから届き、「レースから連想する書物」として、本展テーマである宮沢賢治『春と修羅』が掲げられていました。

 私にとっても、わけても特別な『春と修羅』——その起源は、1991年に鑑賞した、『春と修羅』から着想された勅使川原三郎さんのダンス公演「dah-dah-sko-dah-dah」初演に遡ります。

 幼い頃から宮沢賢治の童話は大好きで、また『春と修羅』収録詩の一部は読んでいたものの、これほどまでに心を震わす世界が存在していたとは、ダンス公演をきっかけに通読するまでまったく知らず・・・その衝撃が舞台「dah-dah-sko-dah-dah」の衝撃と衝突し、身体まるごと『春と修羅』を生きた感覚を味うこととなりました。

【右】勅使川原三郎ダンス公演「dah-dah-sko-dah-dah」
フライヤーとチケット(1991年2月初演・ノール所蔵)
【左】勅使川原三郎ダンス公演「dah-dah-sko-dah-dah」
フライヤーとパンフ、チケット
(1991年12月再演・ノール所蔵)

 1987年に観たダンス公演「月は水銀」のフライヤーに綴られていた一節「あらゆる透明な幽霊の複合体」も『春と修羅』「序」からの引用だったことも、この時はじめて気づきました。

【左】勅使川原三郎ダンス公演「月は水銀」
フライヤーとチケット(1987年7月・ノール所蔵)
【右】勅使川原三郎著『青い隕石』(求龍堂・1989年)

 ブルーの色彩の中、当時夢中だった稲垣足穂の短編名「電気の敵」が目を引き、手に取った一枚のフライヤー。この公演が勅使川原三郎さんの舞台を観た最初で、以降2009年頃までの日本公演はほぼ全てを鑑賞。

SABURO TESHIGAWARA DANCE「電気の敵」
フライヤーとチケット(1987年6月)

 影山さまから届いた『春と修羅』のご回答がきっかけで、遠い過去の衝撃を久しぶりに思い出し、勅使川原さんの舞台を機に『春と修羅』に目覚めたことを書き添えて、ご返信をしました。

 ——驚きました。
 なんと、影山さまも「dah-dah-sko-dah-dah」初演の舞台をご覧になっていたのです! たった数日間の中規模公演にもかかわらず、なんという偶然でしょう! 三十年の長い時を経て、別々の道を歩んできたふたつの「わたくしといふ現象」が、「仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明」が、ビリビリと音を立てて結ばれた瞬間でした(しかも、お互い「序」が一番好き)。

 その時すでに二人展の計画は進んでいたので、テーマを『春と修羅』にすることを永井さまにもご賛同頂き、こうして本日、開幕の運びとなりました。

 芸術体験とは、なんという深遠なものなのでしょう。ある「曲がり角」で実は出会っていた見知らぬ者同士を、そののち、別のきっかけで出会った者同士を、こうして新しく、出会い直させてくれるのです。
 本展のアート体験が、いつかの未来に、そんな偶然を生み出すことができたなら——願いを込めて、オンライン展覧会をお送りします。

 それでは、本日DAY 1の配信記録をお届け致します。巻頭エッセイにはじまり、永井健一さまの絵画作品5点影山多栄子さまの人形作品2点をご紹介しました。
 毎日夜更新される一日のまとめ記事(本記事)をご覧になれば、見落としなく配信内容をチェックできますので、ぜひご活用下さい。


 シトリン色の夏フェス初日、いかがでしたでしょうか。モッシュピットへのご参加も大歓迎です!
 明日もお好きな時間、お好きな場所から、ぜひお楽しみください。

販売期間は【8月6日(土)23時〜8日(月)23時】の3日間。販売は下記バナーの霧とリボン オンラインショップにて。*先着順販売・通販限定
8/4の夜までに、本展出品の全作品が並びます。

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