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少女の聖域vol.2|トレヴァー・ブラウン|誰も追いつけない

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Text|Kayoko Takayanagi

 少女は駆ける。幻想の中を。
 少女は跳ぶ。軽く軽く、まるで重力などないかのように。
 少女は走る。誰も捕まえられない速度で、どこまでもどこまでも。

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 トレヴァー・ブラウンの描く少女は強い。
 向こうが透けて見えるくらい薄く繊細で儚くか弱い少女など、そこにはいない。
 どんなことをしても/されても、少女たちは平然とした顔をしている。それは何者にも侵食されないという毅然とした決意を秘めているからかもしれないし、または少女の王国に在る彼女たちは最初から別次元の存在なのかもしれない。

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 実際にトレヴァー・ブラウンの作品を目にされた方はご存知かと思うが、画集などから想像するよりも彼の作品は大きい。
 その画面の迫力は、正確無比な油彩の筆で描かれるどこまでも完璧な構図と相まって、観る人を彼の世界に一瞬で取り込んでしまう。

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 現実の子鹿ではなく、ハーネスを着けたバンビというある種異形の生き物にまたがり、毒キノコのスカートを翻して浮遊するように疾駆する少女。
 竹のように真っ直ぐ林立する木々は、どこから生えてどこまで伸びるのかもわからない。上も下も見えないモーヴ色の空間には、仄かな光が沢山漂っており、単眼の蝶が不思議そうに少女の道行を見つめる。
 少女の聖域は、単に美しく可愛いだけではないのだ。
 恐れや戸惑い、不安や穢れだって、誰にも渡さない。少女のものだから。

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 思うにアートというものは、ただ単に現実をそのまま写すのではないだけでなく、現実を作者の世界に転写するという行為なのではないか。
 トレヴァーの世界に転写された少女は、そこで確固とした身体性を獲得する。大きな白いリボンは少女の象徴。
 黒いグローブ、ソックスガーターに厚底の靴。
 少女の瞳は光と闇を射抜く。

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 今回の少女の聖域への旅は、彼女が案内してくれる。
 さあ、走り出す準備はいいか。跳び上がる用意はいいか。
 「幻走」は待っていてはくれない。

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trevor brown|painter →HP
born in london, england, 1959 - worked in graphic design and advertising agencies - moved to japan in 1993 and developed the babyart style.

a mix of cute and dangerous influences - several books published by editions treville and exhibitions in los angeles, italy and japan - collaborated in recent years with nananano, urbangarde and miho matsuda

★2020年オンライン開催《少女の聖域》展アーカイヴ

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作家名|トレヴァー・ブラウン

作品名|幻走


油彩・キャンバス

作品サイズ|53cm ×65cm

制作年|2021年(新作)
非売品

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