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ディケンジング・ロンドン|TOUR DAY 1|クリスマス・キャロル《1》

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『クリスマス・キャロル』あらすじ

ロンドン、クリスマス・イブの夜。強欲で人間嫌いなスクルージの前に、かつての相棒マーレイの幽霊が現れる。マーレイの予告通りに現れた、過去・現在・未来のクリスマスを象徴する三人の精霊に導かれて、スクルージは時を超えた旅に出る。

 『二都物語』の世界から次に目指すのは、アドベントを迎えた今日にふさわしい『クリスマス・キャロル』ゆかりの三つの場所。まずは、カムデン・タウンにやってきました。

 石畳に月明かりが仄かに映り込む「霧の月夜」——本ツアーのメイン・ヴィジュアルにもなった内林武史さまのオブジェ作品《物語の街》が迎えてくれました。

 ひとつひとつ、小さな物語が灯る家々を眺めながら、カムデン・タウンのクリスマスを歩いてみましょう。

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内林武史 | 美術作家 →HP
都市/宇宙/記憶/時間などをテーマにオブジェ、立体作品を制作、展覧会などで発表しています。

00_ツアー案内_文と訳

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市井の人のクリスマス
 ロンドンの街では、厳しい寒さと霧にも負けず、人々は陽気で満ち足りた気分でクリスマスを祝っている。クリスマスなんてくだらない!と切り捨てるスクルージも、かつてはクリスマスを楽しむ心を持っていた。現在のクリスマスの精霊に連れられて、スクルージは人々がクリスマスを過ごす様子を目にする。その中には、ごくわずかな給料で雇われている彼の事務員、ボブ・クラチット一家の姿もあった。

 

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 クラチット家の暮らしは貧しいが、お互いを大切に思い、彼らなりの幸福を守りながら、日々を過ごしている。家族で食べるクリスマスのごちそうは何よりの楽しみだ。たとえメインのガチョウや、母親手作りのとっておきのプディングが、家族全員分にしては小さすぎたとしても、それを口に出すようなことは決してしない。

 そんな明るい一家の幸福に、影を落とすのが、ボブの雇い主である強欲なスクルージの存在と、末息子のティムである。病弱で足の不自由なティム(ディケンズの姉ファニーの息子がモデルとされている)の姿に、スクルージは思わず、あの子は長生きするだろうかと現在のクリスマスの霊に尋ねる。ティムが死ぬ運命にあると知ったスクルージは、どうかティムを助けてほしいと懇願するが、精霊は、死ぬならそれで結構じゃないか、余計な人口が減るだけだ、と返す。それは、以前にスクルージ自身が口にした言葉に他ならなかった。自分の発言を悔やむスクルージの胸には小さなティムのけなげな姿がいつまでも残る。


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 スクルージの唯一の肉親である甥のフレッドは、明るい、好人物である。毎年スクルージをクリスマスの食事に誘っては断られているが、何度冷たくあしらわれても、フレッドはめげずにスクルージのもとにやってくる。スクルージがフレッドを拒絶する理由は、スクルージが失った性質を甥がすべて持っているからかもしれない。

 フレッドは、決して裕福ではないが、人好きのする親切な人物で、まわりにはいつも彼を慕う人がいて、財産のためでなく、愛のために結婚をした。物語を読み進めると、これはスクルージがすべて手に入れることができなかった、というよりは手にしていたのにみずから手放した幸福であったことがわかる。

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 フレッドは、もしかしたらそうなれたかもしれないスクルージのもう一つの姿である。だからこそ、スクルージにとってフレッドは面白くない相手であり、妹の忘れ形見の甥に対して邪険な対応をするが、二人のやり取りはどこかコミカルで、心の底ではスクルージもフレッドを疎ましくは思っていないのでは、と思わせる部分もある。

 クリスマスの精霊に導かれて、フレッドのクリスマス・パーティーを目にしたスクルージは、自分の姿が見えないと知りながら、ゲームに加わり思わず子供のようにはしゃいでしまう。くだらない、ばかばかしいはずのクリスマスの楽しさを、そこに集うありふれた人々のあたたかさと幸せを、精霊の力を借りて知ったスクルージは、これまで自分が切り捨ててきたもの、手放してきたものの価値を見つめ直す。

熊谷めぐみ | 立教大学大学院博士後期課程在籍・ヴィクトリア朝文学 →Blog
子供の頃『名探偵コナン』に夢中になり、その影響でシャーロック・ホームズ作品にたどり着く。そこからヴィクトリア朝に興味を持ち、大学の授業でディケンズの『互いの友』と運命的な出会い。会社員時代を経て、現在大学院でディケンズを研究する傍ら、その魅力を伝えるべく布教活動に励む。



00_通販対象作品

作家名|内林武史
作品名|物語の街

作品の題材|ディケンズ作品
木材、ガラス、樹脂、電気部品、他
作品サイズ|高さ18cm/幅14cm/奥行5.3cm(ケースに入れた状態)
制作年|2020年(新作)
*スイッチの上下で灯りが変わります
スイッチを下にすると夕暮れ時の風景「黄昏」
スイッチを上にすると夜の風景「霧の月夜」
*別ショットの画像はオンラインショップに掲載しています

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上写真|夕暮れ時の風景「黄昏」

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上写真|夜の風景「霧の月夜」

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Text|KIRI to RIBBON

 ディケンズの物語を追いかけて、霧が立ち込めるロンドンの街にやってきました。そこは、物語が眠る街。登場人物たちがそれぞれの物語を生きています。
 黄昏時から月夜へ、刻々と表情を変えてゆく街の風景——ディケンズも歩いたロンドンのストリートを、書物を編むようにオブジェに仕立てたのが内林武史さまのオブジェ作品《物語の街》です。

 スイッチの上下で灯りが変わり、クリスマスの温かさを伝える「黄昏」と透徹の空気が美しい「霧の月夜」、ふたつのロンドンが楽しめる粋な趣向です。ディケンズの筆跡舞うケースに本体を仕舞えば丸窓からロンドンが覗き、また違った趣きが生まれます。灯りを消した静謐な佇まいも風情があります。
 コンセプトを形に落とし込む造形センスとデザイン力、全体の印象を決めるディテールの精巧さ、計算し尽くされた微細に異なる質感、シックな色彩感覚——それら全てが完璧に調和し、物語が街に刻んできた静かな熱情が作品を包んでいます。

 ディケンズの書棚からロンドンのストリートへ——書物が街を生きる一作は、小説家への最高のオマージュ。霧の夜空を翔ける内林さまの想像力を追いかけて、クリスマス気分が満ちるストリートを楽しく歩いてみましょう。『クリスマス・キャロル』ゆかりの次の場所へと向かいます。

 《物語の街》から本展ツアーが広がっていくよう願いを込めて、DMは窓がひらくデザインにしました。

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★内林武史さまの他の作品★

★作品販売★
通販期間が当初の告知より変更になりました

12月7日(月)23時〜販売スタート

★オンライン・ショップにて5%OFFクーポンが利用できます★

本展のオンライン開催方法と作品販売については

以下をご高覧ください

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