ディケンジング・ロンドン|TOUR DAY 2|互いの友《2》
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テムズ川を離れて、クラーケンウェルへ。ここには次の目的地である「ヴィナスの店」があります。
グレイッシュな霧の湿度に導かれて薄暗い路地に入ると、造形作家・川島朗さまがヴィナス自身の心象風景に重ねて作り上げた、ゴシックと野趣が混じり合うファザードが現れました。
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ヴィナスの恋
ヴィナスは、ロンドンのクラーケンウェルで、鳥獣類の剥製業と人体骨格組み立て業の店を営む人物である。彼の店には、さまざまな動物の剥製や死骸、瓶詰の標本、人骨などが並べてある。義足のウェッグは時々、自分の脚の骨がまだ売られていないか確認しにやって来る。商売はこのうえなく順調だったが、ヴィナス氏にはある悩みが、恋の悩みがあった。愛する女性プレザントに求婚したヴィナスだったが、彼の仕事に抵抗を感じた彼女にフラれてしまったのだ。
この商売が儲かることを相手は知らないのか?と聞くウェッグに、ヴィナスは、儲けのことは知っているけれど、この仕事に抵抗があっていやなのだ、と嘆きながら説明する。骨的な観点から見るのも見られるのもお断りだなんて!自分の仕事に誇りと愛着を持つヴィナスは、これにショックを受け、骨的な仕事と骨的な観点をいやがる愛する人との間で揺れ動き苦悩し、そして、いじけてしまう。
すっかりふさぎ込んでしまったヴィナスは、弱ったところをまんまとウェッグにつけこまれ、彼の悪事に加担してしまう。恋に破れたヴィナスはこのまま悪の道に走ってしまうのか?愛する仕事と愛する女性の狭間で苦悩する骨をめぐるヴィナス氏の恋の行方はこれいかに。
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作家名|川島朗
作品名|扉の向こう / ヴィナスの店
作品の題材|『互いの友』
ミクストメディア
作品サイズ|18.2cmx13.0cmx6.0cm
制作年|2020年(新作)
Text|KIRI to RIBBON
薄暗い路地裏に佇む一軒の店。薄明かりのガラス窓に映るのは、骨格標本と白いドレスを纏った女性、その横には鳥の骨が飾られている。店主と訪れる人々が刻んできた時が地層となって、扉や窓枠、壁面を覆っている——
現実と空想を自在に行き来し、二つの世界が溶け合い、また分かたれるファザードとなるオブジェ作品を発表し続けてきた造形作家・川島朗さま。《扉の向こう / ヴィナスの店》はまさに、現実と幻影のはざまに位置する一作。霧深いロンドンの路地裏の温度や湿度、匂いまでもが漂い、小説のページに綴られたもっと奥、ヴィナスの心の機微にまで触れることができるかのよう。
川島さまの作品は、ディケンズの小説が書かれたその時からずっとページの中に存在していたのかもしれない——精巧に制作されていながら、作為からもっとも遠い場所に存在する作品を眺めながら、そんな空想に浸りました。
『互いの友』を巡る旅はまだ続きます。
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2012年に開催したディケンズ生誕200周年記念美術展にもご出品下さった川島さま。『クリスマス・キャロル』をテーマに制作されたロマンティックな一作《十二月の幻影(クリスマス・キャロルの箱)》(下写真)は霧とリボンが所蔵しています。
小箱に封入されていたちいさなカードを聖夜に降る雪のように本展会場に散りばめました。会場写真の中に探してみてくださいね。
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★川島朗さまの他の作品★
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